50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2020-10-11 それはどこに立っているかで

コロナウイルス流行による影響は通訳者によってさまざまですが、実績のある通訳者が有利という単純な話ではないというお話です。


2020-04-05 長くなるだろう

という記事の続編です。上記の記事でコロナウイルスによる影響は長引くという意見を示しました。

コロナウイルス流行で通訳業務の需要が大きく減りました。ただし通訳の形態や需要家の産業で状況はずいぶん異なります。

「仕事のある通訳者と仕事を失った通訳者との二分化が進んでいる」
という声も聞こえます。外見ではそうなのですが、技能や営業活動、マーケティングに優れているから仕事があるかという単純な話ではなさそうです。

むしろ偶然の要素が大きい。つまり人が物理的に移動したり集まったりするときの通訳はほぼ消滅したのですが、そうでない場面の通訳は存続し、場合によっては需要が増加しています。

会議場に人が集まる会議は次々と取りやめになりました。数十か国の代表者が集まるような会議は遠隔開催に移行する場合の技術的問題を解決できていません。世界経済フォーラムダボス会議)は2021年1月の予定を8月に変更しました。今年(2020年)4月に予定されていた第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)は 2021年3月に遠隔技術を生かして実施すると日本政府が発表しています。こうして大規模国際会議の通訳を担当していた通訳者の仕事がなくなります。


いっぽう日本に拠点を持つ外国企業は社内通訳者の募集に熱心です。会議通訳の仕事がなくなった通訳者の応募を見込んで通常では応募が少ない優秀な層を狙っているかのようです。LinkedIn にプロフィールを掲載している通訳者は大手企業が自分のプロフィールを閲覧することが多くなったと言っていました。


災害と一口で言っても、水害では河川の付近が、山火事では森林の周辺が、台風では通過する場所が被害を受けます。仕事が残ったからと安心したり、激減したからと悲観することなく、自分が今置かれている状況はどのような事象の連鎖の結果なのかを考えることが次の一手・次の一歩を選ぶうえで重要ではないでしょうか。


緑の中を歩いて考えよう。

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2020-10-03 いろいろと合わせ飲む

通訳に大切なことはいろいろあるだろうというお話です。


民間通訳養成機関インタースクール東京校(株式会社インターグループ経営)に通ったのもかなり昔のことになりつつあります。ついこの間のように感じますが、2012年4月~2015年3月ですから、修了後5年以上経ってしまいました。


大変お世話になった講師の口癖が
「通訳者に必要なのは英語力だけ」
でした。

この発言は文脈を考えて理解する必要があります。

・日本語を母語とする者が
・英語を第二言語として学び
・日英通訳者を志望するとして
・英語の運用能力が日本語と完全に同じということはまずない
・通訳では日英の言語を使う
・したがって決定的な弱点は英語力であることが多い

という流れから出てきた言葉です。

「それでは専門知識(背景知識)はいらないのか」
という疑問を持つ人もいるのですが、言語の運用能力と周辺知識とは比べられるものではないと思います。この講師も通訳の準備として入念に話の内容を研究します。それはあたりまえ。

言語運用能力と周辺知識は両方必要です。それだけではない。顧客や同僚の信頼を得るような態度も、エージェントに自分の希望や要求を伝える表現力も、移動や長時間の準備に耐える体力・精神力も必要です。

あれかこれか、では済まなくて、あれもこれも要求されるのがプロ。


この講師がある日言っていた
「話者にどれだけ寄り添えるかが(通訳の出来を決める)」
ということばも、「なにより英語が大切」ということと矛盾するわけではないと思うのです。

同じ客先に毎週2回通う仕事を数週間担当することがありました。内容に親しみ、発言者の考えがわかってくると「話者に寄り添う」意味がなんとなくわかってきます。


ベトナムのフォー(米粉の麺)には別皿で野菜・香草が付きます。横浜市泉区の「サイゴン」では新鮮な香草がたっぷり。

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2020-09-30 街を歩く

出張先で歩くのがけっこう好きというお話です。


朝早くのバス移動等で都心に前日泊ということもときどきあって、ホテルの周囲を歩くといろいろ発見があります。港区や渋谷区、新宿区といった都心でも表通りの裏に入ると昔ながらの住宅地があったり古くからの商店街がなんとか命脈を保っていたりして意外な発見もあります。

大通りとその他の道が直交しないのは大通りが後からできた証拠。斜めに入る道の先にきっと何かある。

地図は見ないで気ままに歩きます。宿に戻ってからオンラインの地図でどこを歩いたかたどるのが楽しい。


新橋駅前ビル地下1階の居酒屋「おけい屋」が昼に出しているカレー。日替わりで2種類。今日は2種あいがけにしてもらいました。飯を皿に盛るときに良い香りがします。あれだ、タイの香り米(カオホムマリ = ジャスミンライス)。ジャスミンライスに出会ったのは1987年の香港です。中国料理店の裏を歩くと厨房からすばらしい香り。何かの炊きたてだ、ということはわかったのですが、それがタイの米だったのです。

この日はビーフカレーと豆カレー。ビーフは少しヴィンダールー風の酸味を生かしたもの。豆は緑豆と、あとは何だろう…。スパイスで「ガツン」とやろうという作為がないまじめな一皿。接客もとても良い。

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2020-09-29 縁

縁はときとしてとても不思議に訪れるというお話です。


大学院で通訳研究をしている准教授からメッセージが届きました。この方とは通訳者仲間を通して知り合いになっています。
「▲▲語通訳の学習グループが遠隔同時通訳の技術について知りたがっている」
セミナーをしてみてはいかがか」

すぐに引き受けました。理由は3つ。
1 依頼は原則として引き受ける--思ってもみなかったことが起きる
2 ▲▲語にはまったく縁がないので、通訳者とお近づきになる機会
3 遠隔同時通訳の技術面をしっかり理解する良い機会


遠隔同時通訳は何度も担当してきましたが、機材の選定やシステム設定については改めて調査しましたし、操作については実際に使ってみて確認する必要もありました。
「教えるのがいちばんの学びになる」
という言い伝えのとおりです。


セミナーの当日驚いたのは参加する通訳者に著名な方が多くいらしたこと。日本語・▲▲語通訳の頂点を垣間見ることになりました。通訳の技能や実績では足元にも及びませんが、特定の技術については私がお役に立てることになりました。物事にはいろいろな面があるものです。そういえば日本会議通訳者協会で理事になったのも会計・銀行取引に詳しいからなのでした。


遠隔が常態になってからは機器は2台・3台が普通になりました。

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2020-09-26 宗旨替え

ノートPCを持ち出すようになったというお話です。


2014年の夏までずっとデスクトップを使ってきました。この年の3月に初めて通訳の現場に出ることになり、あわてて Androidタブレットを買いました。LTEでネットワーク接続できるようにして出先でメールに対応や調べ物ができるようになりました。

夏にしばらくの間常駐した現場で資料を電子ファイルで渡されるようになり、再びあわててノートPCを買いました。ダイレクト販売で出張先のホテルに届けてもらいました。

光学ドライブ付きで本体に厚みがあり、ハードディスクドライブ使用、そして電池の持続時間が短い。日常持ち歩くという「携帯」よりは「可搬」という使い方でした。


そして今年2020年になり、自宅からの遠隔通訳の件数も増えたので予備機の導入を考えます。実際には今まで使っていた機器を予備に回して入替となりました。

物理的可動部分のない SSD 使用、光学ドライブなしなので本体が薄く、電池の持ちがとても長い。完成したかに見えるノートPCの技術も確実に進歩していました。


この新しいノートPCを常用にして、外出時にも持っていきます。自宅も外も同じ環境というのは思ったより便利でした。


昔からの習慣でよかったことがひとつ。ノートPCではマウスを使いません。以前の勤務先で支給されたノートでもタッチパッドを使っていました。すぐに慣れるものです。今ではお客さんの事務所でPCを貸与されるときもノートならタッチパッドポインティングデバイスを使わせてもらいます。写真の切り抜き程度なら楽々です。みなさん、マウスは実はいらないんですよ、と声をちょっと大きくして言いたい。


汐留シティセンター2階のインド料理店「BINDI」の昼定食。ナンは写真のとおり「色白」なのですが、とてもおいしかった。最近食べたナンのなかでもかなり上位です。カレーもすっきりした独特の仕上がりでまねして作りたくなりました。

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2020-09-18 まだわからない

通訳需要はコロナウイルスの流行で大きな打撃を受けました。来日者が途絶えるので来日者に関連する通訳業務もなくなります。今後の需要がどうなるか、仲間の通訳者や通訳機材提供会社の経営者と少し話をしたことがあります。

結論は
「まだよくわからない」
という、ごくあたりまえのもの。

打撃が深刻で長い期間続けば通訳産業の構造が変わるでしょう。しかし、打撃は大きいものの期間は産業構造が変わるほど経過していません。以前からの「慣性力」がまだ存在すると感じています。環境が変わっても人間の営みは即座に対応しません(できません)。

人の往来が自由にできない状態がさらに続けば通訳市場も必ず変化します。その反対に、例えば来年から移動の制約がほとんどなくなるようなことがあればコロナウイルスのことなど忘れたように以前の活動に戻るでしょう。

影響の「深さ」と「長さ」という2つの変数があるので予測が難しくなっています。


ひきわり豆を煮ます。奥のオレンジ色のものがレンズマメのひきわり(マスールダール)、手前の黄色いのが緑豆のひきわり(ムングダール)。豆そのもののおいしさで食べられます。ムングとマスールを合わせてカップ1で4人分。
1 ムングダールは30分水につけておく
2 マスールダールとムングダールとを圧力鍋に入れ、強火で沸騰寸前まで
3 圧力鍋のふたを取って沸騰させる
4 あくが猛烈な勢いで盛り上がるので取り除く(圧力鍋の弁をふさぐので)
  このあくは捨てない
5 米を炊くくらいの水の量にしてターメリックを小さじ 1/4 加えて圧をかける
6 5分(粒がやや残る)~8分(豆の正体がなくなる)の好みの煮えかげんで
7 あくを好みに応じて戻す(全量戻しても雑味は感じない)
8 塩を入れ、香油をかけてできあがり
香油(北インド風):小さなフライパンにギー大さじ2を熱し、クミン粒小さじ1を弱火でしゅわしゅわするまで。赤唐辛子を1本入れて香りを移す。玉ねぎみじん切りを大匙1杯(省略可)。玉ねぎが色づいたら豆の鍋に加える。

香油(南インド風):ギー大さじ2を熱し、マスタード粒小さじ1を弱火で半量がはじけるまで(残りの半量は他の材料を入れているうちにはじける)。赤唐辛子を1本入れて香りを移し、玉ねぎみじん切り大さじ1杯で温度を少し下げ、ヒングを小さじ 1/8~1/4。カレーリーフを適量(5~10枚)入れ、ヒングの香りが変わったら豆の鍋へ。

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2020-09-13 遠隔通訳スタジオ

遠隔同時通訳用のスタジオがいくつか登場しています。


日本でかなりの市場シェアを持っている InterpreteX の開発元株式会社ABELONがスタジオを設営したとのこと。訪問した通訳者によるとなかなか快適だそうです。

同社のブログ記事を読むと遠隔同時通訳技術の動向がわかります。

InterpreteX

 


株式会社放送サービスセンターが設けたリモート同時通訳センター「Rebase東京」を同社のご厚意で訪問しました。

設営の目的や機能は同社のウェブサイトを参照してください。


たいへんあか抜けた施設で、
「ここで仕事したら気持ちいいだろうな」
という仕上がりでした。

同社の遠隔同時通訳システムの操作はタッチスクリーンを使うとてもわかりやすいものでした。


コロナウイルス流行という思いもしなかった要因が通訳の技術更新を加速する様子を目撃しつつある気がします。