50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-06-17 最新の最新

時代の最先端の科学・技術に関する通訳業務が偶然3件集中しました。すべて別の分野です。

そのうちの1つは情報を求めてインターネットを検索すると参考になるサイトや記事が数か月前から前日のものばかり。今まさに動いている事象なのですね。訳が定まっていない用語もあり、話者との事前打ち合わせの重要さが増します。

すべて個人的に関心のある分野でしたので知的好奇心も大いに刺激され、準備にも大変ながらも力が入ります。

研究情報のインターネットによる伝達・拡散の速さには本当に驚いてしまいます。改めて Sir Tim の先見の明に敬意を表したくなります。


業務の照会があると鳥を見た猫のようにほとんど反射的に
「対応が可能です」
と返事をしてしまいます。ときには日程を空けて新技術や通訳技能について勉強の時間も確保しないといけませんね。仕事の予定がなかなか入らなかった当時の「飢餓体験」があるので、仕事を引き受けて手帳の予定欄が埋まると脳内に快感物質が分泌される気がします。業務一覧表(エクセル)に予定を書いてピボットテーブルで報酬を集計して数字を追いかけるのも一種のゲーム感覚に近いものがあるような。どこまで数字が伸びるだろうかと…。これはいつかは断ち切っていく必要があるかもしれません。


カシア(シナモンの亜種)・クローブ・黒コショウ・グリーンカルダモン・スターアニスフェンネルコリアンダーの粒をフライパンで乾煎りしてから挽いて粉末にします。香りを立たせるチェティナード料理。にんにく・しょうがを使わないおだやかなダール(ひきわり豆)と組み合わせると良い具合でした。

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2019-06-15 不安

フリーランス通訳者につきものの不安についてのお話です。

「完全に準備ができている」
という通訳者がいたら、嘘つきか詐欺師でしょう。

話者本人に成り代わりえない以上、完全な準備はおそらく無理。

通訳者、特にフリーランス通訳者で複数分野を手掛ける場合に共通するものは
不安
ではないかと思っています。


いろいろな場面を経験していても今後必ず新しい課題・問題に直面する気がします。それがどのような形か、なんとなく想像ができるようで実はその想像が当たらない。

現場には魔物が住んでいる。

だからこそ不安に対処する術が必要です。術といっても目新しいことではなく、舞台俳優や音楽家のために書かれた本番前の行動基準を参考にするとよいと思います。

対処法として共通しているのが
「緊張を受け入れよ」
ということではないでしょうか。緊張や不安は当然のこととして受け入れる。無理に抑え込もうとしない。

そしてこれが効果を発揮するのは十分な準備をしたときでしょう。
「思いつくだけのことに取り組んだ」
「時間が許す限りのことはした」
と思えればたとえ通訳の本番が思い通りに進まなくても不思議と後悔の念は強くありません。次に向けての前向きな考えも出てきます。


先週・今週と分野は違うながらも重圧の大きい仕事が続きました。引き受けたからには期待に沿うつもりで取り組みます。私の訳を待っている人がいる。あらん限りの誠実を尽くせ。


近所の家にきれいな花が。ユリもガクアジサイもみごと。

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2019-06-14 「はい、わかりました」と無心に聞こう

他人からの指摘はとてもありがたいというお話です。

通訳学校に通い始めて半年後に出会った講師に通訳の内容そのものではなく体の姿勢などについて注意をもらったことがあります。

企業勤務時代は社内セミナーや採用活動(会社説明会・面接)を担当して人前で話すのは不得意ではないと思っていたのでやや意外でした。

通訳という私にとって新しいストレスが加わったためにできていた(はずの)ことができなくなったのですね。

・目を閉じていましたね
・ノートを持つ手が震えていましたね

自分ではそのつもりが全くなかったので、言っていただいたのは大きな財産になりました。


インタースクール東京校で教わった恩師はこう言いました。
「市場が求めるなら、通訳者として世に出ることになるでしょう」
「5年続けて仮免許で、10年で巡航といえます」

通訳専業として5年が経ち、ありがたいことに途切れずに仕事をすることができています。通訳市場に自分の位置ができたのかどうか。まだよくわからないというところです。同じようなことを別の場で読みました。

フリーランスとして5年間続けることができれば、その人に市場があるとみなします (株式会社アイ・エス・エス プロ通訳者・翻訳者コラム 辻直美さんの記事に引用されたエージェント担当者のことば)

市場を自分が動かせるのでなければ、市場は常に「正しい」ということになります。好むと好まざるとにかかわらず、です。

 

2019-06-13 ヒトは嫉妬深い

通訳者の外見は抑え目・控えめに、というお話です。

以前の勤務先にいたころ、お客さんを訪問するときがありました。先方の担当者さん、だれでも知っているブランドの時計を身に付けています。ステンレス鋼ではなくホワイトゴールドで、石(小さなダイヤモンド)も入っていますね。

お友達の結婚式なら良いかもしれません。記念日の外食でもいいですね。

しかし、サービス提供料を厳しく値切る場ではどうでしょうか。
「その時計を買うだけの給料を払っているアンタの会社に私たちは値切られていますよ」
という感情は程度の差こそあれたいていの人に芽生えます。


私がエルメネジルド・ゼニアの生地で仕立てたスーツを着て、パテックフィリップの時計をしてマセラティクアトロポルテで通訳現場に乗り付けるとどうでしょうか。

そのお客さんが1回の講演で数百万円を集めるカリスマ自己開発系の講師なら全く問題なく、かえって良い印象を与えるでしょうね。

しかし、そうではない場合には
「あの通訳料は高いと思ったが、そういうことか…」
と思われるのがせいぜいでしょう。

寸法が合っていて清潔がなにより。やや保守的に。記号性の高すぎるもの(派手なロゴが入ったり貴金属や宝石を使ったもの)はやめておく。

通訳者にとって身なりについての最高の評価はおそらく
「そういえば今日の通訳者さん、どんな格好してたっけ?」
ではないでしょうか。

通訳者の報酬が5万円でも、3人体制同時通訳で機材を含めるとお客さんの支払額はすぐに30万円になります。通訳音声を耳にする人は
「この通訳は30万円」
と思って聞いています。


日本会議通訳者協会主催の同時通訳グランプリ(コンテスト)は今年も盛況でした。ロンドンから2人・カリフォルニアから1人の参加がありました。入賞者にエージェント各社のスカウトが集まってくるのは昨年と同じ。

第2回同時通訳グランプリ結果発表

 

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2019-06-12 9か月待つ

寝て待つのも必要だというお話です。

高校のときの同級生の縁で登録したエージェントがあります。

その後、照会を何度もいただいたのですがなぜか顧客事情でキャンセルになったり顧客予算に合わなかったりで9か月間稼働に至りませんでした。

なんだか縁がないのかな、とも思いました。

しかし。

その後少しずつ受注が増え、2年もしないうちに私が登録しているエージェントの中で期間あたりの取引高が最高になりました。


日本会議通訳者協会の行事が縁で存在を知ったもう1社のエージェントには自分から登録に行ってみました。その後まったく声がかからず9か月が過ぎました。登録時に通訳技能の確認をしたのですが、その出来が悪かったのでしょうか。

しかし。

そのエージェントに登録して活動している通訳者が
「Shiraさんを放っておいてはいけませんよ」
とエージェントの方に一声かけたら、その数時間後に照会が来ました。

この会社が現在取引高2位です。

おそらく私の個人ファイルがどこかに埋もれていたらしい…。


自分の力で変えられないものは受け入れ、心穏やかに待つのが大切だと知りました。そして、両社共に人の橋渡しのおかげで縁ができています。どの業界でも人の要素はとても重要。


またサボテンの花芽が出てきました。

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2019-06-04 短期記憶(リテンション)

通訳者の短期記憶(リテンション)のお話です。

私が何かつまらぬことを書くより、良い記事がウェブ上で読めるのでそちらを紹介しておきましょう。

アイ・エスエス・インスティテュートのサイトにある
「曽根先生の通訳学習相談室」から

Question 3 リテンション

 

新崎隆子さんの「通訳席から世界が見える」の一節はこのブログで以前に紹介しました。うれしいことに新崎さんは今年の日本通訳フォーラムで基調講演をなさいます。

2012-05-26 リテンション(記憶)

 

日本通訳フォーラム 2019年8月24日 土曜日 会場は都区内

 


こうした木には長生きしてほしい。街にある場合、たいてい人間に倒されて生命が終わる。

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2019-06-03 通訳が毎日のことにはなった

お世話になったかつての恩師の話は冷酒のように後で効くというお話です。

2012-12-09 簡単な算数(プロ通訳者になれない理由)

この以前の記事で、通訳学校に通う受講生にとっては通訳は特別なことであるいっぽう、職業通訳者にとっては通訳は毎日のことだと聞いた話を書きました。もう6年半も前なのですね。

その6年半の間になんとか通訳者らしくなってきました。同じ恩師によると
「(収入を得るようになってから)5年で仮免許、10年続いて巡航といえます」
と聞きましたが、これもまたかなりの真実だなあと感じています。

今年(2019年)になってから毎月の通訳報酬が以前の会社勤務時代の年収(給与+賞与)の月割り額を超えています。入社後28年、管理職になってから8年の水準にゼロから5年で追いついたのはまずまずの成果です(収入の面だけを考えると5年もかかって元に戻っただけ、とも)。通訳には職能資格も成果給も目標達成評価もありません。自分のサービスに顧客がいくら払ってくれるか。その一点です。

グラフ:今までに経験した職種の期間。通訳経験はまだ全体の 15% 。

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まだ仮免許ですから、このまま年収が上昇したり維持できることが確かなわけではありません。実は歩いている氷は薄いのかもしれないのです。

以前にも書いた Only the Paranoid Survive. (Andy Grove) という思いで進むのみ。

2015-04-21 少し不思議・昼寝すると失業


インド料理作りも数十回経験すると日常のことになります。それが顕著に表れるのが複数の料理を並行して作るとき。火を使いながら鍋を洗ったり野菜を切ったりできるようになります。慢心は敵ですが、慣れは偉大です。

・ダールタルカ(煮つぶした豆。ムング豆のひきわりを使います)
・鶏とインゲンのカレー
・キャベツとにんじんのポリヤル
豆に圧力鍋を使えば3品が40分で仕上がります(材料の計量から始めて)。

キャベツのポリヤルは本当に手軽でおいしく野菜が食べられるのでぜひお試しになってみてください。「南インド屋」(実店舗はありません)のレシピがおすすめ。

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