50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-06-02 エージェントへのお願い(事務連絡など)

通訳エージェントへのお願いです。といっても事務連絡の具体的な細かい点について。

このブログを読んでくださっている中には通訳エージェントで仕事をしている人もいらっしゃるだろうと思って書いてみます。

通訳エージェントと通訳者との間のやりとりはかなり頻発します。年間のメールの交換を合計すると驚くほどの数になっているはずです。私の場合仕事を始めた2014年から現在までのメールの総数は8,500通でした(送信・受信の合計)。年間の平日を 240日とすると1日平均7通。送受信が1:1だとすると1日3.5通を受け取り、それぞれに返信していることになります(「はい、承知しました」という短いものも多い)。


これだけの数のやりとりがありますから、1通あたりの効率を向上できればお互いの生産性を向上できるだろうと思います。

  1. メールを読む環境はいろいろ。
    エージェントの方はおそらく卓上の大きな画面でメールを読み書きしています。通訳者は移動中や業務の空き時間に読むのでスマートフォン等携帯端末を使うことが多い。大画面と小画面とでは1画面で示す情報量が違います。小さな画面でも重要な点が読み取りやすいように想像力を働かせることは良い結果につながるでしょう。

    表題にはまず業務日付と業務件名を入れるとわかりやすいですね。
    「あ、□月△日の※※の件ね」
    とすぐに反応できます。メールクライアントの設定で Re:… Re:… Re:…と延々と長くなった表題には少々がっかりします。表題に「ご連絡」と書く必要はないですね。メールは連絡のために送るのですから。

    そして年月の表記も統一すると検索しやすい。6月2日と 6/2 と 6/02 では検索語が違います。少なくとも「このエージェントは必ずこの形式で表記する」というのがわかっていると安心です。
  2. 業務依頼書(指示書・連絡票)も使う立場で考えると改善の余地が多くあります。

    通訳者がこれを読む場面を想像すると内容や様式が決まってくると思います。出かける前に、あるいは現場に近づいて
    「さて、△△ビルだったはず」
    「地下鉄のどの出口だったっけ」
    「何階だったかな」
    といったことに答えてくれる紙面だととても助かります。それも上から下、左から右に自然な順序で。某大手エージェントはこの配置が素晴らしくて感心しました。日付→集合時刻→場所(付近のランドマーク含め)→客先担当者→開始時刻→内容。
  3. 意外と得られない情報が服装と食事です。会議と聞いていたが実は工場内立入もあったこともありますし、念のため食事を持ち込んだら顧客が用意していてくれたこともあります。連絡票にチェック欄を作っているエージェントがあり、
    「なかなかわかってますね…」
    とありがたく思います。


汁なしの米の麺に豚肉と揚げ春巻。人気の一皿。

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2019-05-31 何を練習するかも悩ましい

自分の弱みを見つけるのは実は簡単ではないというお話です。

話が複雑になっても正確に逐次訳を出すための練習をしようと思っていました。自分の訳の内容に改善の余地があると考えたのです。

ところが…。

最近担当した同時通訳でも課題を改めて意識しました。以前は
「練習の緊急度は逐次通訳のほうが高い」
「同時通訳はしばらくの間は日々少しずつ練習する今の方法でよい」
と思っていたのですが、ひょっとすると同時通訳の練習に少し力を入れなければならないかもしれません。


結局は逐次も同時も練習を重ねていかねばならないので、どちらに先にとりかかってどちらに時間を多く配分するかという単純な話のはずです。それでも「選ぶ」というのはある種のストレスを伴いますね。
「選ばなかったことについて心穏やかにいられれば良い選択である」
という話を以前に読んだことがあります。北インド料理を食べて南インド料理のことがあまり気にならなければ良い選択だったわけです。むしろ選ばなかったことを気にしないように自分の心の動きを手なずけるべきかもしれません。


こんな場所の近所で

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こんなおしゃれなお昼にしました。大葉としょうがのドレッシングが Iwaki Pyrex の小さなビーカーに入ってやってきます。

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2019-05-21 現場ですべきことは何か

心臓外科医天野篤さんのことばには強く心を惹かれるものがあります。

以前に

2018-06-20 飛行時間と手術件数と

で年間の手術件数として四百から五百件が技能を維持するために必要だという話を紹介しました。

また、そのときの新聞記事にこんな談話もありました。

手術が患者さんに提供できる自分の真心のすべてですから。そいういう方向で、自分を追い込んできました。手術で100%患者さんに向き合う。必要な準備を怠らず、絶対に手抜きしないということです。
朝日新聞 2012年10月27日)

ごく最近知りましたが、天野教授のお父様は天野教授が立ち会った手術の後に亡くなっているのですね。

【第108回】心臓外科医/順天堂大学医学部教授 天野篤「患者の命を背負い、今日もメスを持つ──『戦い』への挑戦が自分を鍛えた」
(株式会社日立ソリューションズ ビジネスコラム)

 「絶対に生きたまま(家族のもとへ)お返しする」
通訳者にはわからない重圧だろうと思います。


それでもこうしたお話から習うことはありそうです。通訳者として現場に出ればどうしても「自分の出来」が気になるもの。それも内向きな感情として。
「(私は)うまくできたのだろうか」
と思いがち。

しかし本当に大切なのは
「なんとしてでも誠実を尽くして目の前にいる方々の意思疎通を成立させよう」
という決意とそれを裏付ける技能のはずです。過去にうまくいかなかったことがあればそれを徹底して分析して対策を講じ、その場に見合った最善と信じる方策を取るのが職業人の道。天野教授が言うように、逃げられない場面はやってきます。

そんな数々の方法から、最善と思われる一つの方法を選び、何とかしてその関所を越える。 


気負わずに、しかし自分が何をしているかを忘れずに進んでいこうと思います。


コサギが食事の準備中です。

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2019-05-18 通訳小物や同時通訳の交代について

通訳者が使う用品類のお話です…と思って書き始めたら、先日このブログにお問い合わせのコメントがあった同時通訳での交代について良い記事を見つけました。

通訳用の小物やソフトウェアについての情報を得るなら平山敦子さんがまさしく「ワンストップサービス」を提供してくださっています。

アルクの「翻訳通訳のトビラ」の連載が完結したとのこと。まだ読んだことのない方はぜひ参考にされると良いと思います。

連載 通訳者・平山敦子のガジェット天国

イヤフォンやタイマーの回を読んでいたら同時通訳での通訳者交代についてすばらしい記述がありました。交代のタイミングによって同席通訳者と自分の担当時間が異なっても大きな問題ではないとおっしゃっています。それでは何が重要かというと…。

数分、ましてや数十秒の通訳をすることになろうがなるまいが、目くじらを立てる通訳者はいません。重要なのは「交代のタイミングの予測可能性」です。あるいは、予測を可能にするための「一貫性」や「規則性」といってもよいかもしれません。 

さすが平山さん、きれいに言語化してくださいました。そう、人間は「先」や「規則」がわかると耐えられるものなんです。隣の家の子のピアノの練習も
△曜日の■時から●時まで
とわかっていると不思議とうるさく感じないものです。


おいしいナーンが食べたくなって新橋のモティで昼食。仕事で来日したと見えるインド人が多く来ていました。

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2019-05-15 読み違い

策士策に溺れるお話です。

複数の会社で経営幹部の会議で定期的に仕事をしています。この分野の仕事を始めたのは通っていたインタースクールの母体の通訳派遣会社のおかげ。

企業活動の川上から川下、研究開発から設計・製造・販売、管理部門までなんでも出てきます。思い出すのは以前に勤務していた会社の創業者が述べたことば。

経営は経営者が全身全霊で練り上げるものだ


企業勤務時代にグループ企業の設立や清算も担当したので会議の議題にはたいてい「見通し」が利きます。
「あ、あっち系のお話ね…」
という感じで。

しかし気をつけないといけません。かなり高度な話題が出る会議の準備で資料を読んでいたのですがどうしても腑に落ちない。おそらく訳すことはできるだろうけど、理解ができない部分があると不安です。特に日本語の質疑応答が危ない。質問者も回答者も話題を十分に理解して発言するので前提部分をすっ飛ばすときが多い。英語や他の西欧言語、また中国語は理屈の鎖をきっちりつなげる言語(暑苦しい言語)なので通訳者の訳出にはレンガを積むときのコンクリート・タイルの目地のような「つなぎ」が必要になるときもあると思います。そのときに話題をひととおり理解していないととんでもない誤訳をしたり微妙にずれた訳を出してしまったりする可能性があると考えています。


今回は資料を読むときに私の側に思い込みがあって理解が妨げられていました。資料を素直に読み直してようやく自分の思い違いに気づいてほっとしました。危ないところでした。

資料を読むときには自分の知識は総動員すべきなのですが、それが予断につながって理解のじゃまになっては困りますね。良い経験をしたと思います。


「胴切り」をして高さを三分の一に詰めたサボテンが花をつけました。よかった…。

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インド料理も作ってます。
ムングダール(緑豆のひきわり)とチェティナード野菜。

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2019-05-10 逃したりやってきたり

少し長い目も必要だというお話です。

照会を受けたときにときどき
「これはぜひ経験したい」
という仕事があります。

仕事はすべて大切ですが、その中にも少し特別なものがあるのも事実かと思います。

何が特別かは人によって異なることでしょう。大会議場で国際会議の同時通訳を担当する、難しい交渉で細かく気を配りながらなんとか乗りきっていく、舞台の上で「姿の見える通訳者」になる、コミュニティ通訳でそっと寄り添う通訳を心掛ける、普通ならまず縁のない場所に入って仕事をする。通訳の仕事は本当に多種多様だと思いますし、それぞれに難しさ・楽しさがあります。


最近照会を受けた業務で心待ちにしていたものがありました。
「ついに来たか…」
という最先端技術の内容で私の興味も深い分野です。仕事の場面も十分に取り組みがいのありそうなもの。

残念なことに諸般の事情でこの仕事を担当することがなくなり、残念なような緊張が解けてほっとしたような気分を味わいました。次はいつ回ってくるかな、と少し寂しくもあります。

そんな折、まったく思いがけない経路で新しい分野の仕事の問い合わせを受けました。世の中どこがどうつながっているのかわからないものだと感じます。

一日を大切にし、目の前の仕事にできるかぎりの誠実を尽くして取り組む。そうでいながら目の前のことだけでいたずらに悩むことなく、ものごとには続きがあると構えるのも必要だとしみじみ思います。


小田急江ノ島線「南林間」または「中央林間」近くの「シナモンガーデン」、相模鉄道線「さがみ野」近くの「ロイヤルグリーン」と、大和市・海老名市には輝くスリランカレストランがあります。写真はシナモンガーデンのスリランカプレート。

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2019-05-06 空前の

通訳者として世に出る機会のお話です。

社内通訳者としての経験が全くないまま2014年3月に初めて通訳の仕事をしました。通訳学校での在籍が2年になったときです(その後1年通って修了しました)。

それ以来2年間は生計を立てるに足りるほどの報酬はありませんでした。つまり件数が本当に少なかったのです。理由はとても簡単で、
・私という通訳者の存在をエージェントの担当者に思い起こしてもらえない
・思い起こしても「客先から引き合いがあったこの業務」を任せられるかわからない
からです。

私の当時の考え方は
「まだ通訳学校に通っていることもあるし、自分で考えても通訳技能が足りない。あせらずゆっくり取り組もう」
というものでした。

その後に起こったことを振り返ると、それでよかったのだと思います。通訳学校の課程を修了してから照会を受ける件数も一貫して増えてきました。


こうした経験も幸運に支えられた面が多々あると思います。おそらく通訳の需要そのものも日本で拡大したはずです。外国からの投資も増え、日本企業も外国での生産・外国企業の買収に積極的です。

そして今年もまた市場に出る通訳者には強い追い風があります。

  1.  6月 G20 首脳会議
  2.  8月 TCAD(54か国から来日)
  3.  9月 ラグビーW杯
  4. 10月 即位の礼

こうした行事の通訳を新人通訳者が担当することはなかなかないのですが、波及効果は確実に発生します。他の通訳者がこうした業務に集められると他の業務で通訳者が不足し、この「空洞」が新人に回ってくるのです。

多くの通訳者が言うように、通訳の仕事を発注する側は
「この通訳者に担当させて大丈夫なのだろうか」
という一点だけを考えます。そこでどうしても
「この通訳者はこの分野で経験があるのだろうか」
という発想になります。これは責められません。私もエアコンの修理や自分の外科処置を任せるのなら施工者・施術者の経歴を気にします。

しかし、
「経験がないから仕事が来ない。仕事が来ないから経験が積めない」
という困った循環に解決法がないわけではありません。

最も楽で早いのは大手エージェンシー系列の通訳学校で良い成績をおさめることです。エージェンシーとしては(頼りになる)通訳者は常に不足しているので、講師から常に有望な受講者についての情報を取っています。講師が
「まあ、この仕事だったらできるんじゃない?」
と感じる通訳者には必ず仕事が回ってきます。

通訳学校の学習はそれなりに大変で、私も当事者だった時には苦労しました。それでも職業通訳者になってみると受講生というのはどんなに勉強が大変でも
「アマチュア
だったのだなあと思います。プロとの間には歴然とした壁・違いがあります(技能的な難易度というわけではなく)。


職業通訳者として仕事をする機会をうかがっている皆さんにとって国際行事が多いこの年がきっかけになるといいな、と願ってやみません。


上へ。

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