50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2021-07-10 再会

久しぶりに現場で通訳をすると仲間に会うというお話です。


「あれ、どこかでお見かけした通訳者さん…」
という経験が続いています。遠隔の仕事ばかりでしたので、同じ部屋で他の通訳者に会う感覚を忘れかけていました。

遠隔と同じ場所にいることの違いを改めて感じます。休み時間のちょっとした雑談も貴重な情報源だったことも…。


ワクチン接種が進んで活動再開に前向きな(鼻息荒い、とも)ヨーロッパやアメリカの大企業も在宅勤務になった社員を事務所に戻すべきか分散勤務を続けるべきか意見が分かれているようです。

通訳者でも企業の社員でも同じですが、経験の少ない人にとっては遠隔勤務で得られなくなるものは多いと思います。遠隔で問題ないというときには
・業務そのものが請け負いに近い形
・過去からの経験の「持越し」のおかげで誰に何を聞けばいいかわかる
からではないでしょうか。

2021-07-07 直接取引を増やすべきかどうか

通訳者が最終顧客から通訳サービス提供を直接請け負うときの注意点についてのお話です。


身もふたもない結論は
「通訳者の考え方・指向・好みに応じて」
ですね。会社員かフリーランスか、といった問いと同じです。どちらが良い・悪い、どちらが得・損という話ではありません。

直接取引のほうがなんとなく「かっこよく」見える場合には、まず直接取引とエージェント仲介取引との両方を頭の中で体験してみることをおすすめします。


直接取引で最も難しいのは
「請負範囲を決める」
ことです。通訳者と顧客は各自が何について責任を負うかはっきりと理解して合意する必要があります。エージェントモデルではこの部分をエージェントが担当しているので顧客も通訳者もかなり楽ができています。言われたとおり行動すればいいのですから。

請負範囲を決めるのはコロナウイルス流行下の会議で複雑さを増しました。以前は会場が決まって逐次か同時かを選択すれば選択肢はさほど多くありませんでした。今は会議にだれが・どこから・どのように参加するかが多様になっています。それに応じて会議の様式(会場・会場+オンライン・オンラインのみ)を決め、通訳プラットフォームや会議運営方法を選ぶ必要があります。

会議の様式が決まったら、次に主催者側と通訳者側の責任範囲を決めていきます。
・プラットフォームの手配
・話者への連絡と技術面の説明
・司会や運営側への技術面の説明
・通訳者の手配
・機材の手配
・予行演習をするのか、するのならいつ・どのように
・エンジニアの要否、エンジニア役はだれが担当するのか
など。

通訳者が担当することにはすべて対価が発生するのが基本です。厚意で意見を伝えるのはかまいませんが、何か言うと責任が生じます。それなら請負範囲として明示して報酬を受けるべきです。

恐ろしいのは主催者・登壇者・通訳者がそれぞれ
「あの部分についてはあの人がうまくやってくれる(はず)」
「あの点についてはあの人がわかっている(はず)」
「これは常識」
と思い込んでいて、それが現実と異なるときです。


まず初めに確認すべきは、顧客が一括サービス(full turnkey)を期待しているのか、それとも通訳者だけを求めているのかですね。会議運営の経験があったとしても、次の会議をどうしたいかは前回と違うかもしれません。

そして、注意点や確認事項は小出しではなくて一式で提出することが望ましい。後になって
「それだったら最初から言ってよ」
「知ってると思ってました」
ということになると良好な関係に悪影響が及びます。

顧客の担当者が通訳について非常に「ふわっとした」理解しか有していないことはけっこうあります。

ビジネスの基本は
「すると言ったことは必ずする」
「すると言わせたことは必ずさせる」
「すべてのことに責任と値札が付いている」
ことにあるのは思い出しておくべきです。


以上の点から、顧客との交渉と見積書の作り方、記録の残し方が非常に重要になります。


いっぽう直接契約の利点も多くあります。
・他の客を紹介してもらえる
・エージェントモデルよりも事務経費が低いので通訳者の手取り報酬は高め
・信頼できる通訳者に担当してもらうことができる
・依頼し、依頼されることで通訳者相互のネットワークができる
・現場を誰よりも知る通訳者本人が各種設定に関与できる
・顧客を「教育」できる


危険な予感がするときもあるかもしれません。そのときには深入りせずに顧客にエージェントを紹介してエージェントにワンストップサービスを提供してもらいましょう。そこで通訳者として指名してもらえばよい。


意図せず「直接取引になってしまった」ときのためのセミナーを担当します。

はじめての元請


今年も盛りだくさんです。

jitf2021.peatix.com

 

 

2021-07-06 少しずつ加齢を感じる

歳をとったなあ、と感じるお話です。


「ああ、これがひょっとすると『歳』ってことか」
と感じたのが夜勤で通訳をしたときです。夜の9時くらいから翌朝4時まで。そこから交通機関が動き出すまで客先の仮眠室で少し寝て帰宅します。その後2~3日くらいなんとなく調子が出ません。それ以来深夜・早朝業務はできるだけ請け負わないようにしています。


その次が通勤用電車に長時間乗ったときの体の軽い痛み(凝りのようなもの)。以前は到着時間がさほど違わないならなら着席券式の優等電車(小田急ロマンスカーや西武のレッドアロー)には乗らなかったのですが、最近は迷うことなく使います。身長があるせいか、ロングシートに体を縮めて1時間以上座っていると翌日以降疲れが出るようになりました。最近は路線相互乗り入れで普通列車の距離が長くなったことも原因のようです。


そのいっぽう精神活動は大丈夫なようで、日本語や英語の学習、通訳技能の練習では手ごたえを感じることができます。


横浜駅の立ち食い系そばでいちばんおいしいと思うのが北口の地下にある「いろり庵きらく」です。明るく清潔な店内で、椅子もあります。

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2021-07-05 ブログ読者に会う

通訳の現場でご一緒した方がこのブログの読者でした。過去にも数回ありましたが、うれしいですね。特にすごいことを書いているわけではありませんが、2012年に会社勤務をしながら通訳学校に通い始めてから書き続けているのが他のブログとの差別要因かもしれません。

私が通訳者を志したときに見かけた通訳に関する個人ブログで現在も更新が続いているものはほとんどなくなってしまいました。


背中の青い魚を食べると通訳パフォーマンスが上がるという話が…。
いわし料理専門店の昼。

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2021-06-27 いろいろな仕事

コロナウイルス流行で通訳業務の総量が減り、初めての仕事(顧客や業界)の問い合わせが少なくなったと感じていました。ところが最近になって少し変化を感じています。


意外に多いのが
・2019年までは会場に集まっていた
・2020年はやむなく会をとりやめた
・2021年は初めて遠隔で実施
という流れです。


新しい業界・新しい顧客・新しい現場の仕事がありました。以前からつきあいのあるエージェントから新しい仕事の受注もありました。会議の実施方法がいろいろ変わりつつあるので、会議実施者がいままで使ったことのない通訳運営会社に問い合わせをしているのかもしれません。提案力や運営の経験が以前よりも重要だと感じます。

先日は大手エージェントの手配で遠隔業務を実施しましたが、エージェントの運営が実に手慣れていて顧客も通訳者も安心していられました。実施方法が多様化しているので学習して新しいものを取り入れていくエージェントや通訳者にとって今は一種の機会かもしれません。


以前の勤務地新宿区四谷から2題。

四谷二丁目の「スパイスカレー食堂」はスリランカ料理専門です。

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四谷三丁目の「ココカラ」はいつものようにおいしい。

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2021-06-13 いろいろと教わる

知らないことはいろいろあって、ありがたくも教えてくれる人がいるというお話です。


異なった客先、異なった現場でよく一緒になる通訳者がいます。これまでは客先事務所まで出向く仕事だったのですが、初めてオンラインで組むことになりました。

通訳者相互の連絡をどうしようかとメールで尋ねたら
「LINE の音声通話機能を使っています」
とのこと。そしてその次の説明を読んでちょっとびっくり。
「同時通訳用の Zoom を動かしているPCでLINEも立ち上げてます」
「音声出力は当然PC内部で混合されますから、イヤフォン1セットで聞きます」
「Zoom と LINE の音量はそれぞれのアプリで調節します」
「音声入力は1本のマイクを Zoom と LINE で共有します」


言われてみればそのとおりで、ミキサーもイヤフォン+ヘッドフォンの二重掛けも不要です。あわてずにアプリを画面で選んでミュートや音量調整をすることが課題ですが、これは大画面や複数画面で解決できそうです。


さっそく使ってみましたが、非常にいいです。私の場合はPC2台体制で、
1 本会議室
2 支援(LINE 音声+ビデオ会話、オンライン共有タイマー、メール)
という運用にしました。LINE のビデオ会話だと交代のときに身振りで伝えられるて安心感が増してとてもいいですね。


(おまけ)
Zoom の同時通訳機能を使って複数の通訳者で交代して担当するときには、抜けていく通訳者が次の通訳者の「出席者」アイコンを確認するといいですね。
・ミュートが解除されたか
・言語選択は正しいか(英語だと "EN"、日本語だと"あ" というアイコンが参加者名の右側に表示)
ここで間違いがあれば LINE 音声で伝えればいいわけです。


すでにこうしたことをしている方も多いと思いますが、デバイス1台でもできるというのは「言われてみるとなるほど」でした。

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2021-05-20 60歳になります

ブログの表題は「50歳」なのですが、筆者は今年で60歳になり、通訳で生計を立てています。

いまのところ仕事の種類も少しずつですが広がっていて、いろいろな可能性を感じています。いままでも思いもよらなかった出会いや展開がありました。これからもきっと同じだろうと(勝手に)思っています。

通訳養成機関「インタースクール」の講師が言っていた

(開業後)5年で仮免許、10年で水平飛行

というのはかなり正確に実情を表していると思います。業界で5年ほど活動できれば自分に対する需要があることがだいたい証明されるのではないでしょうか。通訳サービスの買い手にとって通訳者に魅力が少なければ売り上げは伸び悩むはずです。

しかし5年では市場にまだ通訳者が知らない領域が多く残っているように思います。その反対に市場の中でその通訳者に出会えていない顧客もいるはずです。突然の不況や世の中の大事件(今回の新型コロナウイルス流行のような)も経験するには10年程度の時間枠が必要です(1991年のバブル景気崩壊、2000年のドットコムバブル破綻、2003年のSARS流行、2008年の金融危機、2020年の新型コロナウイルス)。

私が開業後10年になるのが2024年3月。世の中はどのようになり、私はまだ通訳業を続けているのでしょうか。


このような状態になる危機はいつもそこに口を開けて待っている…。

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