50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2021-01-20 音声機器の話--マイクロフォン(2)

通訳用マイクロフォンでやっかいなのは以下の3点だと思っています。
・動作原理が異なる2種類のマイクが共に主流
・そのうちの1種類がさらに2つに分かれている
・上記の計3種類で接続方法が違う


動作原理についてはすでに資料がたくさんありますからまず簡単に違いを知っておくといいと思います。
ダイナミックマイク
コンデンサーマイク

島村楽器のデジタル楽器情報サイトにすばらしい記事がありました。

コンデンサーマイクとダイナミックマイク


コンデンサーマイクには電源が必要です。
コンデンサーマイクのうちXLRコネクター(キャノンコネクター、3極の端子です)で接続するものには電源(ファンタム電源と呼びます)が必要です(例外もあります)。標準は直流 48V。PCやMac48Vのファンタム電源は供給しません。したがって48Vファンタム電源を必要とするマイクを PC/Mac に接続するときにはマイクアンプやオーディオインターフェイスのうち、ファンタム電源を搭載したモデルを介する必要があります。
※ 48V のイメージですが、1.5V の普通の乾電池を32個直列につないだ電圧。家庭の電灯線は 100V。

ところが

エレクトレットコンデンサーマイク
というコンデンサーマイクもあり、こちらは電源の電圧がずっと低くても動作します。乾電池1個分くらいの電圧で動作するので、非常に広範囲に使われています。乾電池を1個入れるマイクはこのタイプです。また、PC/Mac 内蔵のマイク、スマートフォンのマイク、通訳者におなじみのパナガイドのマイクもそう。

ここで疑問に思った人もいるかもしれません。パナガイドのマイクには電池が入っていませんよね。電源はどうしているのでしょうか。

実はここが一種のキモなんです。

音声を伝える電線で電源も供給しています。これを
プラグインパワー方式
と呼んでいます。

PC/Macタブレットスマートフォンで使うヘッドセットやイヤフォンマイクなど、身の回りのマイクのほとんどすべてはこの
プラグインパワー式エレクトレットコンデンサーマイク
で動いています。接続プラグは 3.5mm 4極(あるいは3極)ミニプラグです。
※ 4極の内訳:右音声・左音声・マイク・共通グラウンド。プラグインパワーはマイク用結線を使います。

プラグインパワーを供給しないジャックにプラグインパワー対応のエレクトレットコンデンサーマイクを差し込むと
「音が出ない」
ということになります。ヤマハのオーディオインターフェイス AGシリーズの「よくあるお問い合わせ」にもこんな記述がありました。

【AGシリーズ】SONY ECM-PCV80Uなどのプラグインパワー方式のマイクの音が出ません。


通訳(会話音声)用に使ったときの私の印象は:

ダイナミックマイク
・温かみ・丸みのある声
・わずかに迫力も感じる
・「マイクを通した声だなあ」という音(変な表現ですが)

コンデンサーマイク
・すっきりした、涼しい声
・ちょっと繊細な感じもする
・息遣いまで伝わってくるような感じ

※ 製品によって全く違ってきます。繊細な音を出すダイナミックマイクや角の丸い音を出すコンデンサーマイクもたくさんあります。

コンデンサーマイクは小さな音にも敏感なので騒音(自動車やエアコン、人の活動音など)もダイナミックマイクより拾います。


現在使っているオーディオインターフェイス Behringer XENYX302USB
ヘッドフォンアンプもマイクアンプも音質があまり良くないので入れ替えを考えています。それでもPC内蔵のD/A変換には負けないと思いますが…。指でつまんで回すボリュームはやっぱり便利ですね。

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2021-01-17 音声機器の話--マイクロフォン(1)

遠隔通訳が一般的になり、通訳者も機器類についてある程度は理解が必要だと思います。まずマイクロフォンについて少し。


何を買うにせよ、自分の使途に合っているかが大切です。自宅で仕事をすることになっても、ナレーションを本業にする人と通訳者はマイクロフォンに求めるものは少し違う。

■ナレーター
高音質がなにより大切。大きなマイクロフォンが目の前に居座ってもよい。環境は極力無音に近づける。リラックスして良い声を出すため、普通の大きさの声で話す。

■通訳者
音質は高いに越したことはないが、他の要素との妥協が必要になる。まず、なるべく小型であること。卓上にはコンピューターやタブレットスマートフォンも置く。紙の資料やノートを使うのもごく普通。目の前にスタンド型マイクは置けない。

環境音は若干なら容認。そもそも通訳者自身がキーボードやマイクのスイッチで騒音を発する。したがってマイクには音質と環境音を拾わないこととの妥協が必要。通訳者の声量は控えめ。


ですから、ナレーター用の高品位コンデンサーマイクが通訳者用の最善の選択にならない場合が多いのはごく当然といえます。通訳者の環境が非常に静かで部屋も広く、大型のマイクアーム(ブーム)を使えるのならノイマン U87AiAKG C414XLS でもいいかもしれませんが(ほぼ冗談です)…。

通訳者の中にはナレーション録音や司会をする方もいらっしゃると思います。ナレーターやアナウンサーが勧めるマイクロフォンは必ずしも通訳に適するとは限らないことは記憶にとどめておいていいと思います。


ダイサギのダイちゃん(仮名)とコサギのコーちゃん(仮名)です。

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2021-01-08 見通しの悪さ

コロナウイルス流行はてごわいというお話です。


当ブログを読んでくださるみなさま、いつもありがとうございます。今年もよろしくお願いします。

今年は 1月6日が初の業務になりました。2021年分で約40件の通訳業務予定(受注残)を持っての年越しです。私の場合1月6日からエージェント各社からの照会が入り始めました。1月の件数は昨年(2020年)よりも多く、月間の受注額としては私の過去最高だった2019年1月に迫っています。わずかに安心できたのもつかの間、首都圏で緊急事態宣言となりました。客先事務所に出向いて遠隔通訳をする業務も多く、この形態が影響を受けるかもしれません。そのまま在宅遠隔に変更になるかどうかは予断を許さないところです。


昨年(2020年)は3月・4月で業務量が大きく落ち込みました。今年はどうなるのか楽観はできません。改善の材料としては企業も通訳者も遠隔に慣れたことが挙げられます。昨年に比べると遠隔会議や遠隔セミナーがごく普通のものになっているのが大きな変化ですね。会議や講演、セミナーが実施されれば通訳の需要は発生しますし、通訳音声を遠隔で届ける技術の存在もかなり知られるようになりました。

いっぽう在宅通訳だと移動時間がなく、「拘束時間=正味の通訳時間」となるため従来の「全日または半日」ではなく1時間あたりの価格の建て方を求める顧客(特に日本国外で)も増えているように感じます。


変化は常に生じていますが、世界規模の感染症大流行による影響は非常に大きく急激です。今年は計画を立てて実行するだけでは足りず、現状を知る努力、自分の認知の妥当性の考察、考案した行動案の評価が重要になると考えています。

川が凍って苦労しているアオちゃんもがんばっている。

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2020-12-31 残り時間が少ない

「あなたでも▲▲歳から通訳者になれます」
という論調の投稿はこのブログにないはず、というお話です。


何かを習得し、それによって成果を上げるにはある程度の時間が必要です。長い短いの個人差はあると思いますが、通訳で考えると年単位で考える必要があります。

私の場合には2014年に業務を始めたので
「仕事はどんどん増えるもの」
という一種の「刷り込み」がありました。外国企業の日本進出、日本企業の外国展開、オリンピック・パラリンピックの準備、来日者の増加などが相まって通訳需要が伸びていたのを目撃してきました。通訳者として経験を積むにしたがって任される仕事の種類も量も増加したので、個人的には「二次曲線的」な増加を経験しました。


今年2020年はコロナウイルス流行で通訳業界に大きな影響があり、通訳者や通訳エージェント会社は大きな打撃を被りました。SARS世界金融危機の経験のある人たちは
「仕事がなくなる」
ということがどういうことかを記憶しています。市場の下降局面に対する準備がある人もいたことでしょう。

いっぽう私にはまったく新しい経験でした。仕事は増えることもあれば減ることもあるということを初めて真剣に考えたわけです。売上が減る可能性を考えて日ごろから貯えを考えるべきか、あるいは下向きの変化に強くなるよう方策をとるべきか。

そして思い当たったのが、そうした大所高所から物事を考えて実行に移しているうちに元気に働ける人生の残り時間がなくなるかもしれないということ。たとえば10年という期間で何をするかを考えるとき、前提条件や実際に10年が経過した後どうなっているかは50歳のときと60歳のときとではずいぶんと違います。


通訳学校に通い始めたときから毎年の目標・計画を立ててきましたが、2021年に何をするかは今までよりもじっくり考える必要がありそうです。

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2020-12-27 移り変わり

主流の技術が大きく変わるとき、その提供者も変わることが多いというお話です。


真空管を製造していた企業がLSI製造にうまく移行した例はないようです。航空エンジン産業でもガソリン機関メーカーがガスタービン(ジェット)に主力を移してうまくいったのは Pratt & Whitney と Rolls-Royce くらいでしょうか。

音楽レコードやCDの制作会社がオンライン配信に移行して成功した例も聞きません。

電気自動車ではアメリカのテスラ、中国の BYD の躍進は他社を寄せ付けていません。


環境が大きく変化するとそれまでの成功経験が一夜にして負債になることが多いですね。
「いまさら変えられない」
「変えるにしても少し時間をかけて」
と方向転換に時間がかかっている間に過去のしがらみのない新興勢力に置いていかれます。

通訳業界にもコロナウイルス流行で大きな変化が起こりつつあります。以前の市場の大きな危機、つまり SARS 流行や世界金融危機の後のように従来型の需要が盛り返すのか、それとも何か新しいものに変化していくのか。

私の場合だと10月から12月へと受注が増加してきたのですが、コロナウイルスの変異種が検出されるなど、まだ先行きはわかりません。


短期的には遠隔通訳が主流となっている現状はしばらく続くと思います。物理的に人は集まれないが会議は必要で、その技術もどんどん進化しています。通訳の方法も変わらざるをえません。
「以前のような会場のほうがよかった」
と言うのは勝手ですが、過去を思い出しても価値は生まれませんね。

今後は「新種」に注目する必要があると思います。恐竜の足元をちょろちょろ走り回っている小さな生物が生き残るのかもしれませんよ。


横浜市にある「ルーフトップビアガーデンヨコハマ」のダルバート(ネパール定食)。マトンのスープカレーも豆のスープカレーもすばらしい出来。ご飯をどんどん食べてしまうので血糖値上昇が心配です…。

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2020-12-22 プレゼント2つ

年末に意外な展開があったというお話です。


2020年6月6日に年間の売上(通訳報酬)目標を下方修正しました。コロナウイルス流行で4月の数字が大きく落ち込んだためです。

不思議なもので、半年後の12月後半に累計受注額がその数字にかなり近くなりました。そろそろ年内の業務の問い合わせも終わりかと思って数字を確認すると更新後の目標に 22,000円ほど足りません。半日の業務が1つ入れば達成なのですが…。

目標には不思議な力があると自己啓発本がしきりに書いています。
「書きだせばかなう」
という主張。それとは逆に、目標は
「子象のときにフェンスから出られなかった記憶」
のように見えない制約になるという考えもあると聞きました。


そして2020年12月後半のある日、通訳者仲間から仕事が1つ回ってきました。これで年間目標達成です。そういえば昨年に月間売上最高額を意識したときも当方が見込んでいなかった超過時間分加算で目標を 1,176円上回ったことがありました。


もう一つのプレゼントは長期的に定例の業務を発注してくれるお客さん2社から2022年までの予定で業務照会がありました。単日の仕事を引き受けるとその日にかかるプロジェクト業務を引き受けられなくなりますが、商売の第一はお客さんの不安を取り除き、さらに何らかの付加価値を付けること。ありがたく予定表に入れようと思います。

「いつも通訳ありがとうございます」
と言ってくれることは当然ではない。自営業者は下りのエスカレーターに乗っているようなもの。立ち止まっていると他が、新しい人や技術が、私を追い越していきます。重力にあらがうような努力が欠かせません。そんなに悲壮になる必要はないと思いますが、いまあるものは
「たまたま授かったもの」
という意識は大切ではないかと思います。


アオサギのアオちゃん(仮称)が凍った川を渡っていました。この後ちゃーんと氷のない場所で狩りをしていました。

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2020-12-20 苦労の後

日本会議通訳者協会主催のオンラインセミナーの企画・実施をしました。内容はサイトトランスレーションです。

ことの発端は同協会の理事のひとりと話をしていて、
「サイトトランスレーションはしばらく続けているといろいろ気づくことがあるね」
と口に出したことです。

「それをセミナーにしよう。よし、決まりだ」
とその場で背中を強く押されました。


セミナーの企画・実施はこれが3回目です。

  1. 通訳者向け会計の基礎知識(東京・大阪)
  2. 通訳者業務請負契約の知識(東京・オンライン)
  3. サイトトランスレーション(オンライン)

過去2回は過去の企業勤務経験が背景になった、いわば通訳業界では「色物」でした。サイトトランスレーションはそれよりもずっと通訳の核心に近いですね。


通訳学校に通って通訳者になりましたが、その間もその後も基礎学習としてサイトトランスレーションをいろいろと方法を変えて試しながら続けてきました。
「これこそが正しいサイトトランスレーション」
と言うつもりはまったくなく(その資格もありません)、ひとりの学習者・通訳者としてどんなことを考えてどう取り組んできたかを紹介すれば、セミナー参加者が学習方法について考えるきっかけになるだろうと思ったのです。


いつものように構想は紙のノートに書いていきます。断片的な事項を書きだしたら簡単な流れを考えてさらにノートに書いてみて、それを元にパワーポイントのスライドを作るのがいつもの方法です。電池が長持ちするノートPCを買ったのでいつものカフェでも作業ができました。会計や見積書の作り方などでは企業勤務時代の知識が役立ち、他の通訳者との違いが十分にあったのですが、こんどは違います。どうしたら参加者に価値を提供できるかかなり悩みました。

スライドの7割くらいを作った後に少し苦労しました。一貫性を持たせ、ある程度の満足度を残してどう終わるか。

幸いにも当日はマイクロフォンに向かって話しているうちに徐々に「熱量」が高まり、話したいことをすべて発表できたように思います。お説教臭かったら申し訳ない。


いつもの散歩道。アオサギのアオちゃん(仮称)も元気。一瞬の早業で魚を取って丸飲みです。

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