50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2020-05-27 レコードライン

A lot of people want a shortcut. I find the best shortcut is the long way, which is basically two words: work hard.
--Randy Pausch, The Last Lecture


自動車レースにレコードラインという用語があります。最短ラップ(周回)時間を実現する走行ライン(道路幅のどの部分を使うか)はどのレーサーにとってもほぼ同一。物理の法則で決まってしまいます。

△△選手独自の特別な必勝ライン取りといったものは存在せず、理想のラインをどれだけ正確に、そしてタイヤと路面との摩擦力を使い切って走り続けるかで勝負が決まる。

通訳の学習にも似た要素がありそうです。達人通訳者の秘密のトレーニングはおそらく存在しないのです。通訳者にとっての「レコードライン」をどれだけ徹底するかで差が付く。


サボテンに花芽が出てきました。それもたくさん。

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2020-05-24 求められる資質・態度は変わらない

遠隔同時通訳(RSI)でも通訳者に求められる資質・態度は変わらないというお話です。


複数日の3人体制遠隔同時通訳を実施しました。通訳者は自宅から参加です。通訳者相互の連絡経路としてチャットアプリを使いました。通訳者仲間が
「日常使わないアプリを使いましょう」
と提案してくれました。たとえば日常 LINE を使っているなら WeChat 等を使うのです。そうすると業務外の着信がないので気が散りません。他の人の意見は本当にありがたいものです。

数日にわたって通訳者相互でずいぶんメッセージを交換しました。通訳の内容や用語の確認、主催者に依頼する事項の事前相談、RSI プラットフォーム機能についての相談など。RSI ではチームとして価値を届ける姿勢がいっそう重要になるように思います。

業務が始まったら、不具合や環境の不自由を嘆いても価値は生まれません。できることは他を責めずに周囲と協力して切り抜けるだけです。つまり求められる姿勢は会議室での通訳の場合と何ら変わりません。


あまりなじみのないプラットフォームを使う場合には、ひととおりの使い方を習うだけでは心もとないこともよくわかりました。事前のストレステストは必須だと思います。コンピュータを誤って再起動したらどのように再接続するのか。ネットワークが一瞬切断したら画面はどのように見えて、何をしなければならないか。自分の次の通訳者がネットワークから「見えなく」なったらどうするか。

起こり得る事象とそこからの復旧処理を紙に印刷しておくのも効果的です。あわてたときこそ落ち着いて順を追って操作すべきですから。


もう一つ気づいたのが、通訳者仲間には Mac を使う人が意外に多いことです。個人用コンピューターの OS シェアだと Mac は 10% 程度のはずですが、通訳者仲間を見るとこの倍くらいあるかも…。遠隔同時通訳で新しいプラットフォームやソフトを使うときには仲間も同じ OS のほうが安心ですね。Mac を使っている人は Windows を使っている人から
「USBマイクを認識していないけど、どうしましょう」
と尋ねられてもお手上げでしょうし…。


曇り空の散歩道。ウグイスやホトトギスシジュウカラがにぎやかです。

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2020-05-22 落とし穴があちこち

自宅勤務で音声を扱うといろいろ危険があるというお話です。


自宅で遠隔同時通(RSI)の仕事をすることが増えました。

いままで気にしなかったことが急に重要性を帯びてきます。なんといっても作業場所の騒音。家族、宅配便、町内会費集金といった自宅での要因もあればごみ収集車の作業、近所の幼稚園の運動会、投票の呼びかけ、救急車の通過も。

最近困ったのが近所の庭木の手入れ。大枝を落とすチェーンソーの音が響き渡りました。大枝は何本もないので私の担当部分のときには幸い作業が終わっていました。しかし、数時間してからまたチェーンソーの音が。なぜだろうと外を見たら、チェーンソーではありません。小型ガソリンエンジンを使ったブロワー(落ち葉を気流で吹き飛ばす道具)です。
「頼むよ…。庭木を切って落とした葉っぱくらいホウキで集めてくれ…」
と思いますが、向こうだって仕事です。

そういえば先日外を歩いていたら集合住宅の外壁補修で足場を組んでいて、パイプのぶつかる音がにぎやかでした。

生活圏には音があふれている…。

確実なRSIを実施するためにスタジオに通訳者を集める方法の意味がよくわかりました(サイマルインターナショナルで Intreprefy を使うRSIは現在この方法だけだと聞いています)。


通訳エージェントやRSIプラットフォームの提供者もリスクや注意点を明らかにして顧客に提示する必要があるでしょうね。一口にRSIといってもいろいろな形態があります。

  • 通訳者はスタジオ(会議場)に集合し、技術者が同席
  • 通訳者はスタジオ(会議場)に集合し、技術者は遠隔で参加
  • 通訳者は自宅等から参加し、技術者はスタジオ(会議場)で参加
  • 通訳者も技術者も自宅等から参加

以上の4通りに対し、会議参加者の参加方法も複数あります。

  • 参加者が全員同じ会議室に集まる
  • 本店会議室に遠隔会議システムがあり、支店等を結ぶ
  • 本店・支店・自宅等が同じ立場で遠隔参加する

これだけでも 3×4 の12通りです。通訳費用を比較するときにはどのようなサービスを提供するかをはっきりさせる必要があるはずです。


通訳者仲間に教えてもらったオーディオ簡易ミキサー。PC その1で遠隔会議室(Zoomや MIcrosoft Teams、WebEx、BlueJeans、Google Meet)に参加し、会場音声を取ります。PC その2で遠隔同時通訳プラットフォーム(InterpreteX)につなぎます。

PC その1とその2とのオーディオ出力をミキサーで混合し、ヘッドフォンやスピーカーで聞いています。音量を個別に調節できて便利です。

写真上が入力(3系統まで)で下にヘッドフォン端子とラインアウト端子があります。右側は電源(USB)です。

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2020-05-18 遠隔同時通訳(RSI)関連 Q&A

株式会社 ABELON が開発・提供する遠隔同時通訳サービス InterpreteX のブログがありました。

プロプライエタリ(所有権のある・利用権のある)システムでありながらオープンに意見を集め公開するのも効果的な方法のように思います。

InterpreteX の体験会をしたときの質疑応答もブログ記事になっています。これを読むと RSI の経験がない人にも RSI がどのようなものかがわかってくると思います。

競合にも参照されてしまうのでしょうけど、利用者の疑問を解いてブランドに親しみを持ってもらう点でこうした方策も効果的かもしれません。


3品作るとどうしても調理台が散らかりますね。チリチキンドライ、じゃがいもとキャベツのおかず、ひきわり豆(レンズ豆と緑豆)。

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2020-05-17 物入り

収入が途絶えているのに買うものが増えるというお話です。


この1年くらいで買ったもの(仕事関係)…
Microsoft Surface Go LTE(出先用)
スマートフォン(折り畳み携帯から変更)
・インターネット接続契約変更
ルーター(買い替え)
・イヤフォン(補充)
・USB接続コンデンサーマイクロフォン(遠隔セミナー用)
・USB接続ヘッドセット(遠隔通訳用)
・オーディオミキサー(遠隔通訳用)
・MP3オーディオプレーヤー(買い替え)
コンタクトレンズ(定期交換)

コロナウイルス流行で在宅通訳が増えたのでいろいろ買いそろえた気がしましたが、列挙してみるとさほど高額というわけでもないですね…。海外旅行や自動車、家の改修というまとまった出費がなかったのでよしとしますか。

小型オーディオミキサーは寝床で思いつきました。遠隔通訳で2台のPCを使うときにそれぞれの音声出力を混合して1つのイヤフォンで聞けます。たとえばこんなとき:

音声A:セミナー会場音声(1台目PC)
音声B:パートナー通訳音声(2台目PCまたはスマートフォン

音声AとBの大きさをそれぞれボリュームつまみで変えられるので同通ブースと似た環境を再現できます。会場音声8:パートナー通訳2 といった音量比にしておけば交代時に安心です(パートナーがどこで終わったか聞ける)。Zoom のように簡易同時通訳機能だったり InterpreteX のように現在はパートナー音声を聞けない(注)ときに役立ちそうです。

注:InterpreteX は将来のバージョン変更でパートナー通訳者音声が聞けるようになるとのこと。

2020-05-16 通訳学校もオンライン授業へ

大手通訳学校がオンライン授業を開始しつつあるというお話です。


人が集まれなくなると教室形式の活動もできなくなります。民間の通訳者養成機関も大変な苦労をしているはず。厳しい試練の時期です。

大手各校がオンライン授業を導入しています。インタースクールは受講開始にあたってのレベルチェックをいち早くオンライン化しました。しくみを用意した担当者や協力会社の苦労は相当なものだろうと思います。

5/9(土)よりオンラインでのレベルチェックテストが始まります! 

2020年4月期を対面型オンラインコースとして再募集するとのこと。

サイマルアカデミーも同様の動きです。

2020年4月コース開講見送りとオンラインクラス(仮称)の開講について(5/11更新)

アイ・エスエスインスティテュートも同様の方針ですね。

4月レギュラーコース開講日:2020年6月初旬~
※今回の再延期に伴い、一部クラスは授業回数を変更(短縮)させていただきます。
※「通学」ではなく、「オンライン」による授業を検討中です
。 


通訳訓練には「習いごと」「芸」の要素も強いので学校側も受講者も試行錯誤の面があるだろうと思います。それでも困難な時期にあえて次に備える決断をする方々がいらっしゃる。ないものをなげくより、あるものをどう使うか考えて行動する。これは稼働している通訳者や通訳エージェントにもあてはまるように思います。

 

2020-05-15 それは誰に聞けばいいか

わからないこと・助けてほしいことがあったら、それを誰にお願いすればいいのか。そして実際にお願いできるのか。これが本当に大切だというお話です。


遠隔同時通訳の技術面で思いついたことがあり、詳しい人に意見を求めました。即座に私の疑問を「真っ芯でとらえた」回答が届きました。

だれを頼るかがわかり、実際に頼ることができる。これは本当にすばらしいこと。技術でもなんでも複雑さが増す一方ですから、「自前主義」には限界があります。自分の得意なところを知り、得意ではないけど自分でしなくてはいけないことを知り、その他は誰にお願いするかを知る。こうした考え方・行動はさらに重要さを増していくと思います。


「だれを頼るかがわかり、実際に頼ることができる」と前段で書きました。そう、知っているだけではなくてお願いできる関係がないとうまくいかないのです。自分も何かに貢献していないとこうした関係は築けないのではないでしょうか。自分の持つものをなるべく惜しまず外部に提供して、それが回り回って予期せぬ形で自分の助けになったことがいろいろありました。


東名高速道路の秦野中井IC近くにある給水塔(2011年撮影)。

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