50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2022-10-16 通訳サービス市場

市場としての効率は良くないながらも、通訳者にとってはそれなりに機能しているというお話です。


通訳手配の仕事は外部から見るとずいぶん非効率かもしれません。

  1. 通訳を使いたい人 (A) が通訳手配会社 (B) に見積もりを依頼
  2. 見積もるからには受注の可能性があるので B は通訳者 (C) に仮発注(優先権の確保)
  3. C が「その日は空いていない」と回答すれば他の通訳者に打診
  4. ここまでですでにメールの総数は 10 を簡単に超える
  5. A の日程が変わったり C に別の引き合いがあったりすると B は大忙しとなる。A にも C にもその他の通訳者にも連絡をする
  6. A が別の通訳手配会社にも見積もりを依頼していて価格や提案で B が負けるときもある
  7. C もB からの仮発注がなくなれば別の通訳手配会社に「この日が空きました」と伝えて仕事を確保しようとする

といった具合です。公開で公平な市場にはこうした「自由なゆえに非効率」という側面がありますね。


通訳者にとって良い面もあります。会社勤務ではいまだに色濃い各種の差別(国籍・容姿・学歴・年齢・長時間拘束の可否)がほとんどありません。顧客の期待に応えていればそれなりに評価され、積極的に宣伝しなくても仕事は向こうからやってきます。直接かかわる関係者、つまり

  • 顧客(通訳を使う人・組織)
  • 通訳手配会社
  • 仲間の通訳者

の期待を裏切らないようにしてさえいれば生き残れます。期待を上回れば通訳者が望む仕事や報酬が得られる確率は高くなります。そして、通訳者報酬の相場は投入する時間や労力に対して低くはありません(低報酬や悪条件のために業界から抜け出そうとする通訳者は少ない)。

注意が必要なのは、通訳手配会社が主な顧客の場合は仕事の量を「ほどほどにする」のは簡単ではないことです。発注側にとって依頼すれば引き受けてくれる通訳者はありがたい存在です。ですから、忙しい通訳者の名前は通訳手配担当(コーディネイター)の記憶に残りやすく、通訳ユーザーからの苦情がない「安全で頼りになる通訳者」を引き続き起用しようとする強い動機が生まれます。

仕事量を抑えるなら、通訳手配会社との相互信頼関係が重要でしょう。通訳者の事情を理解して「少な目に継続して発注」してくれるようになればすばらしいと思います。


自宅で画面を見ながらの遠隔通訳とは違う世界。