50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-04-30 直接契約の顧客

エージェント経由ではない通訳業務、いわゆる「直請け」のお話です。

顧客との出会いは実にいろいろで、通訳者の数だけ縁があるといってもよさそうです。今まで見聞きした類型を記してみます。

  1. 以前に社内通訳者をしていて、フリーランスになってからもその企業から発注がある
  2. エージェント経由で通訳をしたところ、聴衆や相手方企業から接触がある
  3. 通訳者仲間から紹介される
  4. 自分が参加している活動経由で通訳業務の照会を受ける
  5. LinkedIn や Facebook などで連絡をもらう
  6. 通訳者自身のウェブサイト経由で連絡がある(自ら営業活動をしている)
  7. 積極的に営業活動をする

私の場合は上記の3・4・5で合計4つの客先と縁がありました。うち1社からは継続して仕事の発注を受けています。今般同社から許可を得たので経緯と業務内容とを参考になるかと思い紹介しておきます。


一般社団法人日本会議通訳者協会のウェブサイトに通訳業務を掲示する申込フォームがあります。日本以外では顧客が通訳者に直接業務依頼をすることが多いので、日本市場の特徴(エージェント主導型)を知らない外国企業や個人から
「こんな仕事があるけど、だれか請け負いませんか?」
という問い合わせがあります。

同協会は非営利なので会員向けの掲示板に業務内容をそのまま転載するだけです。関心のある通訳者が自分の責任で連絡を取ることになります。


しばらく前のこと、英国ブリストルに本拠地のある InsideAsia Tours というアジアを深く知るツアーに特化した旅行会社から投稿がありました。福島県の震災被害・復興を知るツアーを組むので通訳者を求むという内容です。

この掲示を見た瞬間
「これは私のための仕事だ」
と強く感じました。震災・復興関連の通訳業務を経験していましたし、外国ジャーナリストによる取材や各国機関による視察の通訳も多数担当しています。

直接の、それも外国の見込み客にすぐに対応できたのはそれなりの備えがあったからです。いつの日か直接受注ということもあるだろうと LinkedIn にアカウントを作り、日英両言語で簡単な経歴を掲示していました。エージェントに対しても業務経歴書は日英版で提出していました(日本国内の発注でも発注権限者が外国人ということも多いですから)。

ですから、ただちに
「この件に関心大いにあり。LinkedIn のプロフィール見られたし」
と第一報を送ることができたわけです。

メールのやりとりや InsideAsia Tours の評判を一通り調べた結果(企業勤務時代に新規取引先の調査をしていた経験が生きます)、この会社は安心だろうということで経歴書と見積書とを送ります。後の紛争を防ぐために諸条件はしっかり書いておきます。

値付けは最も重要です。エージェントが間に入らないので資料や出張の手配、報酬の請求はすべて自分で行うので事務経費分の上乗せを忘れてはいけません。万が一の貸し倒れ(代金回収不能)リスクも含めて設定します。そして忘れてはいけないのは
「次回があったらどうするか」
ということ。初回に安くするとそれが前例になってしまいます。通訳報酬と移動拘束費や宿泊手当(日当)のバランスや競合(エージェント)がいくらの見積を出すかも含めて考える必要があります。


その回のツアーは InsideAsia Tours と The GREEN Program の共催によるものでした。参加者は米国の大学・大学院で研究をしている方々で、視察や表敬訪問でも切り込みの鋭い質問をして通訳者の仕事を価値あるものにしてくれました。The GREEN Program の創設者 Melissa Lee さんと福島で会えたのも非常に幸運でした。同氏は Forbes が選ぶ 30歳未満の 30 人 の1人に選ばれています。


二回目の発注では私が動けない日もあったので信頼できる仲間の通訳者にも入ってもらい、初めて元請負人としての経験もすることになりました。任せる・任せてもらえる通訳者にすぐ連絡ができることの大切さがわかりました。


幸運だったこともありますが、
「幸運は準備あるところに機会が訪れるときに生じる」(セネカ
というのも間違いないと思います。LinkedIn の英文プロフィールを作るのなんかまだ先でもいい、経歴書はとりあえず和文だけでいいと先延ばしにしていたら対応できなかったわけですから。


ここまで読んでいただいた方にお礼を申し上げます。
「こんな良いことがあったよ」
と言いたいわけではなく、外国からの直接発注がどう始まったかを示しておきたかったのと、思いついたらとりあえず始めておく重要さの一例になると考えたのとで書いておきます。


マキアダチSmoky and the Sugar Glider とが出るのですから、行かないわけにはいきません。

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