50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-12-30 通訳者最強の営業ツール

仕事を招く活動のお話です。


ブランド確立や(営業活動とは違う狭義の)マーケティングも大切なのかもしれませんが、もっと身近で重要な活動もあると思っています。

初めて取引をする顧客から直接発注をいただくことが最近続きました。きっかけは同じです。

XXXセミナーに参加していました。そのときの通訳さんを主催者に紹介してもらいました

という経路です。特に逐次通訳のときにこの種の紹介が多いようです。原発言と通訳音声の両方を日英両言語を解する人が聞く可能性があるわけです。そこで安心してもらえれば
「この通訳者なら大丈夫ではないか」
という印象を残せるのでしょう。同時通訳で原発言と通訳音声の両方をわざわざ聞くことはあまりないでしょうから…。


仲間の通訳者と話をしたときも同様のことを聞きました。逐次通訳業務の後に新規取引先が増えることが多いとのこと。

正確でありながら「通訳らしさ」をなるべく排除した訳を聞き疲れのしない音声で伝えることができれば最高の営業ツールになると言えます。ウェブサイトを作ったりソーシャルメディアで不特定多数に対して発信するよりも見込み客の関心を引く確率が圧倒的に高い。


「それでですね」「えー」「…ということになります」「あの、その」といった癖を取り除くだけでも印象はかなり良くなります。肯定文では文末で音程を下げて自然に終える。新しい内容に入るときに短い間合いを取ったり文頭で音程を少し高くして「マーカー」を入れるのも理解を助けるうえで非常に有効です。訳出が同じ内容なら顧客は必ず聞きやすい通訳者を選びます。数時間も聞くことになるのですから…。顧客はたいていの場合気に障る通訳者の癖をがまんして聞いているのが現実に近いのではないでしょうか。


現在通訳学校に通っている方は講師や仲間の受講者を顧客だと思って「お伝えする」気持ちを頭の片隅に置くといいかもしれません。

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2019-12-24 鈍感と敏感と

鈍感でありながら敏感であれ、というお話です。


通訳音声を聞く人に決して伝えてはいけないのは
「通訳者が何かを探そう・読み取ろうと苦労している気配」
です。元の発言にないものは何であれ加えてはいけないのですが、そのなかでも「迷い」は特に避けるべきだと思います。

まず第一に通訳音声を聞く人が話者の発言をあるがままに受け取れなくなります。迷いなく言い切っている発言を自信なさげな通訳で聞くのは問題ですね。

第二に通訳者に対する評価が厳しくなります。
「この人の通訳をこのまま聞いていって大丈夫かな」
と思わせてしまう。その日の通訳を聞くときに「割り引かれて」しまいますし、その後の受注にもよくない影響があるかもしれません。


自信がないときはそれなりにおとなしくしていろ、という風潮は日常のあらゆる場面で見聞きします。しかし通訳の仕事が進行しているときの「反省の色」は状況の改善につながりません。不安は心の中の棚にそっと上げて、後で取り出して反省の材料にすべきでしょう。


この「後で取り出して」というのも重要です。仕事中は一種の「鈍感」で乗り切って、その次には「敏感」に振り返って改善を考えないと。このブログで以前にも引用した Andrew Grove (Intel 元社長)の著書の題

Only the Paranoid Survive

が示唆するものは大切だと思っています。


自分ではそれなりにできたと思う仕事のあとにあえて自らに問うようにしています。
「よくできたと思ったが、お客さんは『次からは別の通訳者にしてくれ』と言ってきた。なぜなんだ」

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東京駅京葉線乗り場近くのパン販売・カフェ「Rød」ではクイニーアマンをなぜか底を上にして並べています。客が盆に平らな面を下にして乗せても会計のときにまた底を上に。
これがあるべき姿らしい。

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こう置きたくなるのだけれども。

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2019-12-21 心の中の小鬼とつきあう

自分の考え方に癖・傾向はもちろんあるけれど、それを意識しておけばよいのではないかというお話です。


会社勤務を28年してから全く異なる仕事を始めました。
被雇用者 → 自営業者
事務職  → 専門サービス職

あせってはいませんでしたが、それでいながら
「少し時間がかかってもそれなりに事業を軌道に乗せなくては」
という思いもありました。自分で決めた商売替え、うまくいったと思いたいではないですか。


通訳学校で良かったのは身近に通訳者が存在すること。まず仕事をきちんとすることが第一で、何か考えるとすればその後ということが自然とわかります。日本会議通訳者協会の発足に関わっても感じたことは同じ。下積みというか、基礎固めというか、そうした時期は必要だし、変化は連続的に起こるだろうと感じました。大きな「ブレイクスルー」といったことは普通起こらない。野球選手イチローのことばを思います。

小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。


顧客・エージェント・仲間の通訳者の期待をできるだけ裏切らないようにしていれば完全に受け身でも2014~2019年(現在)の東京圏に限れば年間の平日のほとんどが埋まるだけの仕事は得られます。業務の照会を受けるという立場ですが、そこにわずかに自分の選択も入り込むときもあります。初めての分野だけどどうしようか、少し難しそうだけどどうしようか、遠隔・長時間だけどどうしようか。


そうした小さな判断(判断とも呼べないようなささいなもの)が重なると少しずつ状況が変わってくるように思います。通訳現場をそれなりに「収めた」ことへの褒賞は次の仕事です。業務照会や通訳報酬の支払いは顧客やエージェントからの「清き一票」なのです。

自分から何かを仕掛けるよりは日常の努力を続け、判断のときが来たら自分に素直に決める。そうすれば次の清き一票がやってくる。


通訳学校に通っていたときと変わらぬ眺め。

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2019-12-20 通訳の評価はだれがする

「評価」の種類によるというお話です。


顧客の求めに応じて通訳を提供して報酬を得るのが職業通訳者ですから、顧客の評価がまず第一に大切です。対価に見合った通訳が提供されれば満足し、類似の場面が今後出てくれば再度発注してくれることでしょう。


いっぽう、通訳の正確さ・品位は顧客にはなかなかわからないものです。そもそも両言語を自由に使えないから通訳業務を手配するわけですから。通訳の質を最も的確に厳しく評価してくれる人がいるとしたら他の職業通訳者でしょうか。ただし業務中ではそんなことをしている暇はありませんが…。

それに次ぐのは録音して自分で聞いてみることですね。これは実際の業務ではなかなかできません。顧客・エージェントの承諾を得なければなりませんし、そんなことを言い出す通訳者は「怪しい、もしくは危ない」通訳者として見られてしまうでしょう。


したがって次善の策として練習のときに誰かに聞いてもらうか録音して自分で聞くかということになります。これをときどきしていないと危ういと思っています。


カレーノキの葉(カレーリーフ)はさわやかな香りがする香草です。4月に植えたらどんどん育って新鮮なカレーリーフの供給を続けてくれます。

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マスタード(粒)とカレーリーフ、青唐辛子、ターメリック、ヒング(アサフェティーダ)、しょうがを使ったひよこ豆の料理。たまねぎを具材として使います。

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2019-12-19 同時通訳の難しさ

時間が足りない故の難しさってあるな、というお話です。


しばらく逐次業務が多かったと思ったら一転して同時通訳が続きます。同時通訳は一本調子というわけにはいかず、数分の間にも濃淡があります。通訳者が危ういところこそお客様としては通訳者が頼りになる部分のはず。ここを的確に切り抜けたいものです。


しかし平均台の上を走るような、苔のついた石を伝うような場面で正確さと聞きやすさとを両立させるのは難しい。いや、難しいというよりはできない相談です。場合によっては
「せめて誤った情報は出さないように」
「中心となる概念だけはなんとか伝えよう」
ということもありえます。


こうした場面での耐性を身に付けるには練習が必要です。訳してみて難しかったら何がどう難しいのかを検討して対策を考える必要がある。何度も試してみるうちにより良い方策に行き当たることもあるし、いろいろと考えて何かをつかむときもあるし、今日のところは何も得られずということもあります。確かなのは知的に怠惰であってはならないということ。分析的な視点は忘れてはいけないのだろうと思います。


植物も熾烈な生存競争をしています。それを心落ち着く光景だと思うのは人間の勝手ですが。

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2019-12-16 イヤフォンとの意外な別れ

こんなこともある、というお話です。


同時通訳ブースでおなじみの BOSCH 社の DCN-IDESK 卓上ユニット。イヤフォンを側面に差し込むのですが、講演が終わって立ち去ろうとしたらプラグが抜けません。イヤフォンジャックの中で何かが「ささくれ立った」ような感じでどんなに力を入れても外せないのです。

イヤフォンが安価なパナソニック RP-HV162-K だったこともあり、あきらめてイヤフォンを置いてきました。数年間頼りにしていたイヤフォンだったので残念。製造・販売終了なので入手は困難でしょう。午後は予備のパイオニア SE-CE521-K を使って事なきを得ました。みなさん、イヤフォンは複数持ち歩きましょう。


その日の同席通訳者さんによると
「よくある」
ことらしいです。通訳者によっては 3.5 mm のミニジャックを使わずに 6.3 mm の標準ジャック(大きいほうの差し込み口)に変換プラグを使って接続しているとのこと。高価な製品を使う人はこのほうが安心でしょうね。


次期イヤフォンとして JVC の HA-FX1100 を購入しました。分解能が高くはっきりと、かつ柔らかく鳴ります。まだ仕事に使っていないので評価はできませんが…。

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四谷三丁目のココカラの昼食はいつでもすばらしい。

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2019-12-15 忘年会

少しずつの積み重ねはいつのまにか大きくなっているというお話です。


通訳エージェントからお誘いを受けて忘年会に参加しました。おいしくて楽しい集まりになりました。

参加者は十数名で、そのうち初めて会う方は4人。過半数が何らかの形で接点があった方というのは今までなかったことです。通訳専業で5年、「仮免許」を取得するとこういうふうになっていくのかな、と思いました。


参加した方々の経歴はさまざまで、いろいろな方のお話を興味深く聞きました。出身の通訳学校や登録している通訳エージェントにとらわれない緩いつながりは私にとってとても居心地が良いですね。どこに所属しているというわけではないけれど職業通訳者としての連携は意外と堅固。いざというときに頼りになる結びつきです(今年は私も仕事に呼ばれたり呼んだりしました)。


ときどき高いところでも仕事をします。

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