50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-10-09 異なるエージェントが同じ現場で

通訳者相互は同業者。仲良くいきましょうというお話。

今までに数回、同じ業務を担当する複数の通訳者が異なるエージェントから来ていたことがあります。おそらく複数の通訳者を手配できなくて
「一人なら出せます」
という会社が2つあったとか。

私は派遣元が違うとかどこかとか、そんなことを気にしたことはありません。現場に入れば同じチーム。お客さんの評価だって
「今日の通訳は訳に立ったか」
だけです。

用語集があれば交換し、同じ現場で経験があれば知識移転(knowlege transfer)をします。顧客に価値を提供するのが第一。通訳者の派遣元が違ったからって、仕事の何が変わるのか。何も変わりません。


左下は南インドのケーララ州の作り方で魚のカレー。緑の葉は自宅で摘んだカレーリーフです。右下はムングダール(緑豆のひきわり)。

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2019-10-07 売掛金の回収

業界で売掛金に対する感覚が違うというお話です。

顧客からの報酬が自分の銀行口座に入金する日はオンラインバンキングで口座を見張っています。

取引のある大手エージェントからは午前8時や9時に入金します。銀行の振込センターに前日に振込データを送信している会社ですね。摘要が「給与」となっている場合もあります。振込手数料を減らすために給与振込扱いにしているのですね。こうした会社は手堅いという印象を受けます。給振扱いにするには振込データの送信を1日早める必要があります。事務処理が合理化できていることを示唆します。

午前の遅い時間や午後に入金してくる顧客もあります。当日の依頼(データ送信)で振り込んでいることがわかります。私にとってはやや要注意な客先となります。顧客の資金担当者が病気になったりしたら当日の入金ができくなります。インターネット経由で送金依頼をするのなら機械や回線の故障で振込実行ができなくなるかもしれません。


当日に為替を取り組む(=振込を依頼して実行する)企業にはその理由を詮索したくなります。支払資金が足りるのを確認してから払っているのではないか、など。


私は建設業の企業で支払い担当をしたことがあります。この業界では支払の約束は絶対です。客先からの入金をあてにして協力会社への支払いや社員への給与支払いを計画します。払うと言ったものは必ず払う。相手が払うと言ったものは必ず回収する。期日に入金がない場合には翌日の朝に電話で確認します。要領を得ない回答の場合には事務所を訪問します。行ってみたら夜逃げした後だった、ということだって起こるのです。

半年間に手形・小切手の不渡りを2回出すと銀行取引が停止となり、事実上の倒産です。手形を扱ったことのある経理経験者は支払に非常に敏感です。で、私も敏感ということになるわけです。期日に入金しない場合にはすぐに次の手を考えてしまいます。電話にするか訪問するか。内容証明郵便を送るとしたらどの段階にするのか。お金のことにユルい会社は危ないという考えがしみついています。


いっぽう通訳業界で手形や小切手で支払うことは聞いたことがありません。すべて現金(銀行振込)決済ですね。口座の資金不足で為替の取り組みができなくても(振込ができなくても)不渡り事故にはなりません。顧客によっては支払の遅延もけっこうあるような話を聞きました。
「なんだかんだ言っても払ってくれるから」
という感じで。顧客がその顧客から支払いを受けないと通訳者に払えない(払わない)ということもあるらしいですね(back to back 決済)。

私も「潔癖症」を少し鈍らせたほうが良いのかもしれません。


いつもの散歩道。竹は青々と。ヒガンバナは彼岸の日に咲いていました。

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2019-10-03 訳はさっと出ないと

「表現の引き出し」は多いほうがよいというお話です。

話の進行が速い同時通訳をすると「脳内資源」のかなりの部分を聞くことに振り向ける必要があると感じます。極端なことを言うと
「訳を意識する割合が低下し、半ば自動的に訳が出てくる感じ」
に近くなってきます。品質はあまり良くないのかもしれません。それでも人になんとか聞かせることができる訳を出すには、追い込まれてもそれなりの訳をとにかく「引き出しから出して」ぶつけていくしかない。

「あ、これ、どう言おうかな」
と逡巡した瞬間に話者の話を追えなくなります。通訳者関根マイクさんのいう「最寄りの訳」をさっと出すことが必要になるのです。

最寄りの訳をとっさに出すには日常の練習や意識が問われます。「あれ(良さそうな訳)」が出てこないとき、「これ(その代替品)」をさっと出せるのかどうか。日ごろから「あれ」も「これ」も自分で使える語彙・表現にしておかないといざというときに間に合いません。


以前の勤務先は建築設備の会社だったので、あちこちに「地図に残る仕事」があります。幕張テクノガーデンもそのひとつ。

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荒木町に残った最後の料亭「千葉」。営業しているのでしょうか。街灯はコンクリート製で昭和初期のもの。道の敷石は都電の路盤をはがして使ったものと聞いています。

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2019-09-30 気をつけよう

油断すると足元をさらわれるだろうというお話です。

等身大の自分の姿を見ないと危ないですね。


君は何者だ。

企業勤務から50歳を過ぎていきなりフリーランス通訳者になった。小さな成功で満足感があるかもしれない。だが、現場に出ればごく普通のどこにでもいる(代替の効く)通訳者といっていい。この2年くらいは仕事量が十分あるが、その前はどうだ。とても持続可能性を示す状態ではなかった。

今仕事があるのは
「たまたま」
だからではないのか。


フリーランス歴5年を過ぎて、何でもできそうな気がして少しいい気になっていないか。地面と見分けがつかない落とし穴がすぐ前にあるかもしれない。おそるおそる歩くのをやめ、のんきにドカドカと歩き始めると落ちるかもしれない。

まともに考えれば通訳技能の伸びは20歳代・30歳代、あるいは40歳代にかなわない。「もの知りおじさん」を切り売りしているようなら簡単に追いつかれて置いていかれる。


そうだとしたらどうする。


樹木や日陰を生かした大手町の再開発「OOTEMORI」。ここにあるプロント ILBAR のロイヤルミルクティはポットで出てきます。なんというか、「牛乳感」のあるミルクティ(写真の菓子は別売、手前の器はティバッグ受け)。

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2019-09-29 常に「はい」

業務打診・照会に対する返事はほぼいつも「はい」というお話です(注)。

まさかという展開がありました。

中国語の達人である友人と Facebook 上で他愛もないコメントのやりとりをしていたら、知らない方から
「日英同時通訳をしてくれませんか」
というダイレクトメッセージが届きました。その方は中国語の同時通訳者なのですが、次の仕事では英語話者も登場するのでリレー英語同時通訳も必要とのこと。

私に会ったこともなく私の通訳も聞いたことがないのにこのメッセージ。大陸の人の思い切りのよさは「やたらと保険を掛けたがる」日本人とは違います。

私と Facebook 上でコメントを交わしていた方は中国語の達人。その人の知り合いの英語通訳者なら大丈夫と思ったとのことです。


私の返事はいつものように
「はい」
でした。通訳学校の恩師がかつて言ったことが脳裏に残っています。
「自分のところに来る仕事は、できるから来るのです」


業務はかなり要求度の高いものでしたが、事務局のみなさんの献身的な働きで登壇者の原稿等がかなり手に入り、できるかぎりの準備をしました。

中日訳を聞いて日英訳を出すときには親通訳者(キー通訳者)の力量や下流に対する心遣いが自分の訳に直接影響があることがよくわかります。反対に自分の英日訳を隣のブースの日中通訳者に渡すときの緊張はかなりのものです。始めた文は必ず完結させ、文の構成ははっきりと。あいまいな同音異義語は言い換えるか説明を添える。
「リレーを担当してこそ同時通訳がわかる」
という先人の言葉がよく理解できます。通訳チーム内の打ち合わせもとても大切(この用語はカタカナで出す、など)。他の3人の通訳者とは初めて会いましたが、すぐに結束の固い仲間になりました。


中国の元外交部部長(外相)が登壇し、通訳コンソールの入力選択を「CHN(中国語)」にして隣のブースからの中日訳を聞く準備をします。ところが司会者から
「今日はいろいろな国の方がご参加とのことで、英語でお話しされます」
というまさかの展開。あわてて入力選択を「FLOOR(会場)」に切り替えます。この方の発言を「英日同時通訳」した通訳者はそう多くないと思います。

この日は日本の元外相も登壇し、その通訳も担当しました。日中の外相経験者の声を通訳できたのも、Facebook のダイレクトメッセージに
「はい」
と返答をしたから。

※注:過去2回「それはできかねます」というお返事をしています。顧客・エージェントに迷惑がかかる場面を合理的に見積もれた場合でした。蛮勇はいけません。

 

2019-09-26 なかなかうまくいかない

業務というパズルの部品は日程になかなかうまく収まらないというお話です。

ぜひ請け負いたい仕事の照会をいただいて手帳を見るとその日にずっと前からの予定があった…。

こんな経験は多くの人がしていると思います。

一日で3件計5日分の照会を受け、すべてみごとに先約がある日の業務でした。この日の収穫は皆無ということ。少しずれていれば引き受けられるのですが…。

自分の力の及ばないことでくよくよしても仕方がありません。

またの佳き日を思って、残念な思いはそっと送り出しましょう。


いつもの散歩道にて。

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