50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2014-02-08 手に取るようにわかる

企業勤務で専門にしていたことがいくつかあります。

しばらく前にちょっとした縁でいただいた通訳業務の内容が私の経験してきたものでした。

話が本当にわかっていると、日本語でも英語でもあまり関係ないような気がします。ノートもほとんど取りませんでした。授業では四苦八苦していますが、本当になじみのある内容だと気がつくとウィスパリングができています。きわどい内容はきわどく訳せています。

この「話者との一体感」はちょっと不思議な体験でした。

打ち合わせはかなり敵対的な感じで始まったのですが、それでも淡々と訳す余裕があったと思います。

人間の精神活動は「あちらに集中するとこちらがお留守になる」というものなのでしょう。内容が 100% 近く理解できていると、話者の意図(押し・引き・含みを持たせる・責任回避 等)も表現することができますね。元発言を聞いた瞬間に言うべき訳文がアタマにきっちり格納される感触を(数回ですが)味わいました。

なるほど、通訳者や翻訳者には専門領域が必要なわけです。「言ったとおりに」なんて、訳せるはずがありません。内容がわかっているから「説明してさしあげる」ことができるのではないでしょうか。そして、内容がわかっているからこそ通訳者が黒子に徹することができる。足さず・引かず・歪めずにその場で表現するなんて、余裕がなければできそうにありません(そうでない人もいるとは思いますが)。

ただ、残念なのは私のかつての専門領域では通訳が必要になる場面がごく少ないんですよね…。

専門を絞ったほうが通訳者として競争力を高める可能性がありそうだ、ということはよく分かった気がします(あたりまえか)。

2014-02-07 無料セミナー(ISS)

アイ・エス・エス・インスティテュートで無料セミナーを開催するようです。

ISSはインターネット媒体や無料セミナーの使い方が上手ですね。こうした「撒き餌」(失礼!)で親しみを醸し出すのも営業戦略として有効なのでしょう(望んでいる見込み客と異なる層が来るということもあるのでしょうけど)。

1回限りのセミナーですからさほど大きな収穫はないかもしれませんが、学習の息抜きにいいかもしれません。あと、レベルチェックの無料券がもらえたりするみたいです(今回はわかりません)。

特別セミナー


2014-02-06 自分勝手との闘い(2)

昨日に引き続き読み取り・記憶保持について。

内容になじみがあるとどれだけ楽かという例を取り上げてみます。以下の文なら1度読めば日本語でほぼ完全に再現できるのではないでしょうか。China を主語にして英訳するのも容易だと思います。
市営企業を容認し、外国企業を招き入れ、世界貿易機関(WTO)に加盟し、金融制度も少しずつ自由化してきた。
朝日新聞社説 2014-01-29)
文字数はさほど増えなくても、以下の文だと1回読んだだけでの再現がぐっと難しくなる気がしませんか。
建国以来の国富を消失したといわれる文化大革命の後、80年代から成長を続けられたのは、計画経済から市場経済へと近づく努力を積んだ成果だ。
(同)
後段で「近づく」「努力する」「積み重ねる」「結果になる」と、重要な要素が4つ出てくるのがやっかいです。第1例には書き手の判断はほとんど入っていませんが、この第2例には筆者独自の表現なのでさっと読んで記憶に留めるのが難しいのだろうと思います。

通訳では話し手の考えを伝えるために意図をできるだけ脚色せず・損ねず取り込むのですが、これが簡単ではありません…。

地道に練習していきます。

2014-02-05 自分勝手との闘い

伝言ゲームという遊びがあります。

言語を変えなくても人づてにすると話がどんどん変わっていきます。

まして通訳だと…。

●思い込み
授業を受けていて、私の原文解釈はときどき(いつもとはいいません)自分勝手だなあとあきれてしまうことがあります。積極的に
「この話題なら、こうなるはず」
と先読みをしているわけではありません。素直に聞いているつもりでも油断するとすぐに無意識の自分の「読み」や価値判断が入り込んできます。

●文の構造
ブログ読者のみなさん、もしお暇があればおつきあいください。
以下の文を1回だけゆっくり読んで、その後で内容を英語で説明してみてください。細かい点は拾えなくてかまいません。何が・どうだ(どうした)という程度で。英語が出てこなければ日本語でも。

語句: Gogol ロシアの文豪ゴーゴリtroika トロイカ(3頭だて馬車)、a swindler 詐欺師、a coachman 御者
文中の his troika は「ゴーゴリが作品中で表現したトロイカ」です。
50 words です。ゆっくり音読すると 25秒でした。
Gogol describes Russia as a deeply flawed and corrupt country, but it is precisely its misery and sinfulness that entitles it to mystical regeneration. His troika carries a swindler, Chichikov, and his drunken coachman, but it is transformed into the symbol of a God-inspired country that gloriously surpasses all others.
The Economist Feb 1-7 2014, p.16)
いかがでしょうか。私の場合には読んでいるときには内容がどんどん頭に入ってきた気がしましたが、英語で再現するとなると文の構造が出てきませんでした。

書き言葉でやや改まった表現ですが、さほど複雑な文ではありませんし、単語も一般的です。原稿を使うスピーチだとこのくらい息の長い文は出てきそうです。

ゴーゴリThe Economist の記者の意図がよくわからない場合でも文法的に読み誤る余地はないように思います。

この程度の記憶保持・構文解析ができないから通訳学校で苦労しているんだな、と自分で改めて思いました。わずか25秒ですから、ノートを取ったって結果はさほど変わらないでしょう(わからないものはノートにできない)。

2014-02-04 ベストな通訳学校は存在しない

しかし、受講生と学校(講師)とのベターな組み合わせは存在しそうです。

「どの学校がいいでしょうか?」
という問いに答えるには、質問の主が何を求めているかが鍵となります。

やってみないとわからないことばかりですから、何かの縁を感じたところに飛び込んでしまうのが良いかと思います。始めるといろいろ感じたり考えたりしますから。

私が通っている学校から他に移ったり、他校から移ってきたりということも珍しくないですしね。

2014-02-03 都市伝説 everywhere--インタースクールは厳しいのか?

土曜昼のひととき、いかがお過ごしですか?

… という感じで呼びかけたサイトトランスレーション練習会が無事に始まりました。参加いただいたお2人には深くお礼を申し上げます。他に参加表明をしていただいた方にも別の機会にぜひおいでいただきたいと思います。

そこで聞いたのが
「インタースクールって先生コワイんでしょ?」
「人格否定みたいな注意が出るってホント?」
「宿題たくさん出るんでしょ?」
といったお話。

どこでお聞きになったか尋ねたところ、インターネット上の質問掲示板等とのこと。

2年近く毎週通っていますが、少なくとも私の経験ではそうしたことはないですね。個人の受け取り方の違いかもしれませんが…。

自分でもちょっと調べてみたら、そうした書き込みの日付はかなり古いですね。鮮度が低い。仮説としてはこんなところでしょうか。

・客商売ということに目ざめ、学校ぐるみで態度を改めた
・そうした一部の講師が引退するか転出するかした
・書き込みをしたのはごく一部の受講者だった

原因は1つだけではないかもしれません。

各校の評判を知りたければ、「現在」通学している人に尋ねると最も信頼性が高いはずです。短期講習を受けても良いですし、学校の出入り口で受講生をつかまえて聞いてしまうということだってできますね(ご自身の判断でお願いします)。


宿題については取り組み方次第ではないかと。徹底的に準備すれば毎日2時間ずつでも足りないかもしれませんし、当日に電車やカフェで間に合わせることができるかもしれません。授業だけで通訳訓練が不可能な以上、何がどれだけ必要かは自分で試して考えてみるしかないですね。

2014-02-02 まだウソ訳が多い

おそらく通訳学校に通い始めた当時(2012年4月)よりは通訳技能は少しはましになっている気がしますが、それでもまだまだですね。

儀礼的な部分は、まあ、どうでも良いのですが(名前や肩書き、組織名を間違えなければ)、問題は重要な部分の間違いがあることです。因果関係や何がどの部分に含まれるのか除かれるのか、という点で誤ってはいけませんね。

今日の授業でもいくつかそんな誤訳をしました。

通訳者の訳を聞いた人にうなずいてもらうには、まず元発言を聞いた通訳者が心の中で深くうなずく必要がありますね。
「ふむ、そういう話ですか。しかと承りました。みごとに伝えてごらんにいれます」

話をしっかりと「受けとめる」感覚をもっと大切にして聞いてみようと思います。キャッチボールでボールをまずしっかりと捕って、それから確実に握って投げ返すように。