50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2017-04-15 通訳学習で効果が上がる人

通訳の学習をしていて
「じゃあどうすればいいんですか」
という問いを多く発しているとしたら要注意かもしれません。この言葉の向こうに
「要求すれば(私にとっての)最適解が与えられるはず」
という姿勢が見え隠れします。

あるいは最適な努力をすれば最短時間・最少労力で最大の成果が得られるだろうと期待している。

客観的な解答が前もって決まっていると仮定し、そこにいかに要領よく到達するかという考えの延長にある発想のように思います。


通訳訓練はそれほど「固まって」いないと思います。
「コレをして、次はコレをこうやって、こうしていけば通訳者としてデビューできます!」
と説いているとすれば、それは様々な努力をして通訳者になった人が自らを振り返ってその過程を語っていることがほとんどです。上記の発言は実は
「コレをして、次はコレをこうやって、こうしてみたら、私の場合は通訳者としてデビューできました」
と語っているにすぎません。


通訳者として世に出た人には
「学習セットAをして、Bをして、Cに進んで同時にDを続けて…」
と外部(講師・学校・「ネットの情報」)から情報を得てそのとおりに進んだ人はほとんどいないのではないかと思います。

むしろ学習するのが苦しいながらも楽しくて続いてしまった人・いろいろと疑って自分で試した人・くやしさをバネにひたすら取り組んだ人が多いように感じます。

インタースクールのプロ速成科(現在の専属通訳者養成コースの前身)で共に学んだ若い仲間はとても優秀だったと思います。その人たちにとって学習することは当然のことになっていて、モチベーション・何時間学習するか・プログラムの内容といったことにはほとんど関心を示さなかったように見受けました。いわば
「息をするように学習」
していたという印象を与える人たち。

私は手探りばかりしていて、勤務先を退職するという「渡った橋を焼き落とした」勢いで学習をしている一面もありましたが、他方こうした「澄んだ心」で学習している感触も得ていました。

みなさんはどうでしょうか。

 


ダルバートが続くと炭水化物を食べ過ぎてしまいますね…。それにしても豊島区大塚の「ダルバート」のダルバートはおいしい。日常食のたたずまいですが、食べてみればもう芸術に近い。

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2017-04-14 通訳者として最も大切なこと

思わせぶりな表題なのですが、内容は平凡です。

通訳者として最も大切なのは

  • 顧客の
  • エージェンシーの
  • 同僚通訳者の

期待を裏切らず、実績を重ねること。
たぶんこれしかない。

ひとつの仕事が終わったら、次の仕事でもう一歩重ねる。

運の悪いとき・仕事と自分の得意分野や経験の巡りあわせがよくないときなどいろいろありますが、できるだけのことをして次につなげる。

顧客・エージェント・他の通訳者から寄せられる信用は大きな財産になりうるけれども、失うのもたやすい。プロは得意なところを大いに生かしながらも、不得意な部分もなんとか目立たないようにしたり改善したりしてリスクを管理し、信頼の失墜を防がなければなりません。得意なことを伸ばすことで足りるアマチュアと違うところではないかと思います。

そして、こうしたリスク管理に最も効果があるのが日々の仕事から学び、仕事の他にも訓練を習慣づけることなのでしょう。

 


新宿区四谷三丁目の「ココカラ」で豆乳プリン。黒糖風味・きなこ入り。最近の好物です。
店主は20代で仲間と開店しました。その仲間が一身上の理由でわずか2年後に去った後に同郷の気心知れた友人を招き入れます。落ち着いたのもつかの間、3年後にその友人も帰郷。一人で夜までの営業を続けるのは身体的に無理と判断し、午後6時以降は別の経営者に店舗を貸すことにしました。柔軟にあきらめずに厳しい競争の中で自営を続けていく姿に何度も励まされてきました。いつも勇気をありがとう。

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2017-04-12 手放さないとつかめない

モコちゃんパパさんのブログ「定年からの通訳デビュー」に

何かを削いでいかないと新しいことはできない

という記事があります。

そうだよねぇ、と深く同意しました。私も勤続28年の会社員生活と管理職の年収を放り出しましたからね…。

2007年から久しぶりに二輪車に乗り、季節を感じて走る喜びを思い出したのですが、2013年の年末に手放しました。思いついた翌日に買取店に持ち込み、ヘルメットを片手に電車に乗って帰りました。時間を使う楽しみは通訳訓練と相いれないと感じたためです。事故に遭ったら仕事に出られなくなりますし。

2008年の年末にはちょっとしたゲーム感覚で飲酒を一切やめてみました。勤務先の宴会でも困らないことがわかり、3か月、半年、1年と経つうちに飲まないのがすっかり自然になり、もう8年3か月になります。若いうちはまだしも、私の年齢だとアルコール摂取をしないのは通訳の学習に良い影響があったのだろうと思います(時間の確保の面で)。

 


天賦の声を持つ歌手 SalyuIris-しあわせの箱
「失わずには前に進めない」(04' 13")という歌詞に心を打たれます。

2017-04-11 基地

昨日の記事で現場には早く着くと書きましたが、正確には
「早く現場を確認し、その付近で待機する」
ですね。待ち合せがあったり入館時間がまだの場合もあります。

何度も訪れる現場なら近くに立ち寄るカフェを決めてあります。A現場なら地下街の Tully's 、B現場なら高架下のドトール、C現場なら途中のガスト、D現場だと駅近くのベローチェ など。

飲食物の質や雰囲気とは別に、自分にとってなんとなく慣れて居心地が良い店ができてきます。

2017-04-10 記事の訂正・おわび

2017-04-09 労働者と個人事業主と という記事で

顧客にもエージェントにも使用者責任は生じません

と書きましたが、日本型のエージェント(元請人)の場合、通訳者の選定等の責任を負いますし、指揮・監督の責任が生じる可能性がないとは断言できないようです。

使用者責任の考えは雇用者(会社)・被用者(社員)の他にも拡大して解釈される可能性があるかもしれません。

貴重なコメントを付けていただいた かたな さんにはこの場で御礼を申し上げます。

通訳役務の提供で顧客から苦情が来たら、まずエージェントが対応し、そのうえで通訳者に責任があればエージェントと通訳者との間でのやりとりとなるわけです。


エージェントが通訳者をどの程度「指揮・監督」するかは個別の問題となると思います。ここも派遣社員との質的な違いはどうかについて少々微妙な点かも…。

2017-04-10 現場に着かねば仕事はできぬ

通訳の仕事でおそらく最も大切なのは
・指定された時間に
・指定された場所に
・指定された準備をして
到着あるいはログインすることです。

これができなければ、どれだけすばらしい訳を出す能力があっても零点です。

企業勤務と違って業務の請負です。道に迷ったとかバスが混んでいたとか電車が遅れたというのは顧客にとっては一切関心のないこと。

この点ではいろいろと気をつけてきました。

  • 日付は必ず曜日と共に確認する
  • 電車を使うときには止まっても代替経路を使える路線を選ぶ
  • Google ストリートビュー等で現場の様子を確認しておく
  • 乗り換えや徒歩の経路は紙に印刷しておく
  • 顧客のウェブサイトで訪問方法を確認しておく
  • 写真入りの身分証明書と名刺とは常に携帯
  • 十分に余裕をとった時間に到着する

通訳業務を始めたころに工業施設で待機時間の多い仕事を経験しました。待つことに慣れてとてもよかったと思っています。今では都区内の現場なら集合時間の40分くらい前に着くようにしています。40分あれば電車が止まってもなんとか間に合いますし、カフェで資料を確認したり、現場の状況を見ることができるときもあります。

早く着いたおかげで会場に早く入れてもらい、新しい資料の存在を知ったこともありましたし、話者と打ち合わせができたこともありました。

 

わが人生の成功のことごとくは、いかなる場合にもかならず15分前に到着したおかげである。 (ネルソン)

 

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2017-04-09 労働者と個人事業主と

社内通訳者は多くの場合社員(期限の定めのない社員 = いわゆる正社員、期限の定めのある社員 = いわゆる契約社員派遣社員)の身分で仕事をします。

フリーランス(自営業者)は業務請負人として仕事をします。

この二つの形態はかなり異なるので、社内通訳者からフリーランスに転向しようという方はフリーランスの働き方についての本を何か1冊読んでおいたほうがいいと思います。税金・年金の違いが話題になりやすいのですが、もっと本質的で重要な点があまり取り上げられないように思うので…。


● 使用者責任 (注)
フリーランスは具体的・詳細な作業の方法については指示を受けずに成果物を納入したり役務を提供します。顧客にもエージェントにも使用者責任は生じません(エージェントに元請負人としての責任は生じますが)。通訳者が顧客に損害を与えたら通訳者が賠償の責任を負います(← この部分断言はできないかもしれません)会社員ではないので「カイシャ」が何とかしてくれることはありません。

2017-04-10 訂正・追記 エージェントには実質的な使用者責任が生じる可能性もありそうです。

● 労働者の保護

フリーランスは労働者ではないので、顧客やエージェントには通訳者を指導したり保護したりする義務がありません。健康診断を受けさせたり、必要な安全講習を受けさせることはありません。通訳者が「請け負います」と言ったら、すなわち「一人でできます」と言ったのと同じ意味になります。労働者ではありませんから、労働者災害補償もありません。昔の表現だと、「怪我と弁当は自分持ち」なのです。


私は企業勤務の社会保険労務士として8年の経験があったので、雇用(会社員)と業務請負フリーランス)との違いはよく理解していました。

ですから、通訳業を始めたときから
「もし自分が何かの事情で通訳の現場に行けなくなったらどうしようか」
ということも強く意識していました(趣味の二輪車を手放したのもこの理由から)。

卒業した通訳学校の母体である大手エージェントからの仕事を中心に請け負ってきた理由の一つもこの点です。もし私が交通事故に遭ったり急病になっても、大手エージェントならだれかを代わりに現場に出してくれる(確率が高い)。私も同じクラスで学んだ人の代わりならどこへでも飛んでいくつもりです。

また、日本初の通訳者のための同業団体「日本会議通訳者協会」の会員になり、各種イベントや事務で「顔を広く」してきたのもいざというときの「保険」という意味合いがあります(実際に会員相互の「助けて!」「わかった!まかせて」というやりとりがあります)。

通訳者も年代によって子供の急病・老親の容態の急変など、他の人に助けを求める場合が出てくるのはほぼ確実だと思っています。

通訳は
「その時間に・その場所に」
いることが求められる仕事です。自営業者には労災保険雇用保険(失業保険)も傷病手当金もありません。リスク管理については確かな情報を元に考えておく必要があると考えます。

 

注: 使用者責任については近江法律事務所様のサイトにわかりやすい記述がありましたのでリンクしました。同事務所にはこの場で御礼を申し上げます。

 


倉橋ヨエコの「今日も雨」。この歌詞は心にしみます。底抜けに明るくて、それでもどこか諦念が漂う。映像との組み合わせが実に巧み。ドラムス・ベース・ギターの演奏も達者です。通訳者のための歌だなあ。