50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2017-09-26 時間がない

先日の記事で和田泰治さんのセミナーがとても良かったと書きました。お話や質疑応答の答えになんともいえない深みがあります。20年間通訳をしてきたという経験が何らかの裏付けになっているのでしょうか。

深みというと思い出すのがインタースクールでのセミナーです。その席では私も話をしたのですが、同校の平井聖一さんのお話が記憶に残っています。誠意のある、十分な情報を伝える話でしたが、それに加えてもう一つ何かがある。長年通訳をしてきた人が感じている通訳に対する「畏れ」とでもいいましょうか。

そういえば平井さんも20年ほど通訳をしていますね。


以上の2回のセミナーから「20年」という期間がどうにも気になります。なぜ気になるのか。理由は簡単で、私にはこの20年がおそらく与えられないからです。

私は外面(そとづら)の良いことばかりこのブログに書いていますから(だって、悩んだりつまづいた話ばかりではつまらないでしょう?)、ひょっとすると40歳代から上の人に対して
「あなたも今からでもやればできる」
というメッセージを送ってしまっているのではないかと心配になります。

私も50歳を過ぎて幸運の連続でなんとか通訳専業と名乗れるくらいにはなりました。しかし、だいたい様子がわかるまでに10年かかればもう60歳代、上記の和田さんや平井さんのように厚みを持つまで20年かかったら70歳を超えます。もはや脂の乗った働き盛りとはいえない。

この厳しい現実が最近特に気になります。


30歳代の人と同時通訳ブースに入り、運よく2人共に同じくらいの無難さで業務ができたとします。しかし、そのうちの1人はさらにあと20年経験を積み、実力を伸ばし、活躍の場を広げる機会がある。もう1人は10年もしたら体力・気力の衰えを感じ始めるかもしれない。

通訳現場に出よう、もっとうまく通訳をしようとだけ考えて走っているときには思いつかなかったことです。

これから通訳(に限らず何か新しい職業)を選択しようとする人にはぜひ考えてほしいことです。

A:「通訳者になりたい」
B:「なれるさ」
B:「なれたら、それからどうするんだい?」

 


9月の最終週。まだセミが鳴いていました。

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2017-09-25 収穫の多いセミナー

アイ・エスエス・インスティテュート 東京校 開催の

英語通訳者養成コース特別セミナー
【プロ通訳者から学ぶIT通訳の対処方法】(2017-09-23)

に参加してきました。

参加費無料で直前に出席を促すメールも届きました。


講師は和田泰治さん

内容はここに書くべきではないのですが、非常に参考になりました。出かけていってとても得をした気分です。質問が2つあったのですが、時間を独り占めもまずかろうと1つ尋ね、和田さんの信念・経験からすばらしい答えをいただきました。そして他の参加者が私が聞きたかった「問2」を質問してくれたのです。こちらの回答も心に響くものでした。

先月に参加した日本弁護士連合会主催のセミナー
「法廷通訳に関する研修会 通訳におけるメモと記憶のメカニズム」
に続き「大当たり」です。やはり何か感じるところがあったら出かけてみるべきですね。

 


規則正しい時刻表。近所の人には便利ですね。

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2017-09-24 それ以上も以下もなかった

通訳者の喜びはどこに見出せるのか。

改めて答えをどこかに探さなくてもよいような気がします。今まで通訳をしてきたし、これからもしていくつもり。他人にうまいこと説明する理由は必要でしょうか。


いろいろと心配しながら準備をして臨み、細心の注意を払ってできるだけのことをする。顧客がどう感じるかは顧客が決めること。同席通訳者がどう思うかもその通訳者が決めること。

それ以上もそれ以下もない。たぶん。

すべての仕事で同じだろうけれども、
「できるだけのことをする」
というのは、もう少し詳しく言うと
「できることはすべてしなくてはならない」
ということなのでしょう。

 


階段にこれがあれば営業中。

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緑にも勢いがありました。

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2017-09-22 Kinko's さまさま

通訳エージェントから通知がありました。

資料をファイル共有サービスにアップロードしたとのこと。使うのは翌日です。オールカラーで数十ページ。こんなの自宅では印刷できないよ。インクカートリッジがいくつあっても足りない。白黒だと読めない部分も多い。そして、この資料を使う会議はかなーり重要。

通知を受けた日の業務は中休みが長く、その時間に読みたい…。


印刷・コピーサービスの Kinko's があることを思い出しました。企業勤務時代によくお世話になった会社です。

社内文書2千部に誤りがあるのを見つけたのが金曜の午後、配るのが月曜!というときに年中無休・24時間営業の同社は本当に救いの神でした。

Kinko's の店舗のPCでダウンロードし、カラープリンターを指定して印刷指示をします。枚数を申告すると印刷待ちデータを確認して印刷してくれるしくみ。PCは再起動すると検索履歴や一時保管ファイルが削除される設定になっています。

業務用レーザーカラープリンターは速いですね。あっというまに仕上がりました。

特筆すべきは店舗内の清潔感と店員の丁寧な対応です。横浜駅西口店にお礼を申し上げます。


ペーパーレスの世が来るという声を聞いたこともありますが…。

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神奈川県綾瀬市スリランカ料理店「ロイヤルグリーン」にて。この店は粘りのない外国米を使っています。

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2017-09-17 仕事内容の予測・顧客の評価

仕事についての予想は当たらないものだと思っています。考えていたのと違ったなあ、というほうが多いかもしれません。

細かいことは話し合わないと予想していた会議で技術的な詳細に入り込んだり、とても難しそうだと思っていた内容が実は発表者の明快な説明で訳しやすかったり。

予測して仕事に臨むのは大切ですが、そこであまり心配しすぎると準備に差し障りますし、当日の出来にも良くない影響がありそうです。

そして、経験を積むにしたがってだんだんと「見通し」が利くようになってくるのでしょう。

▼それと同様に、お客さんの通訳者に対する評価も通訳者が感じる結果と食い違うこともあるようです。通訳者は
「今日はなかなかうまくいった」
と思っても顧客はそう思っていなかったり、通訳者が
「いや、参った。これでは客の評価は厳しいだろうな」
と感じても意外に良い評価だったり。

原因はいろいろありそうですが、次の2つではないでしょうか。

  • 顧客と通訳者との組み合わせ、いわゆる「相性」
  • 難しい仕事は他の通訳者にとっても難しいので、評価が相対的になる

元発言に語句の単位で忠実な通訳を高く評価する人もいれば訳出の流れの良さに重点を置く人もいます。ぎっしりと詰め込んだ訳でかまわない人もいれば、早口で平坦な訳は聞いていて理解に残らないという人もいます。

「うまくいった」
と思う業務は他の通訳者にとっても成功する確率が高いので、
「この前の通訳者さんには及ばないね…」
ということもあるでしょう。そしてその逆も。


いずれにしろ通訳者は顧客の反応や評価を受け取ったら
「なるほど。顧客はそう感じたのか」
とまずは受け止めることが必要だろうと思います。自分の感触と違っても
「他人の感じ方は自分ではどうにもできない」
「自分の感じ方も真実だが、顧客の感じ方もまた真実だ」
と淡々と受け入れることが建設的な改善努力につながるはずです。

 


暑かった日に恵比寿のインド料理店「タンドゥール」に入ったら、ラッシーが大きな容器で出てきました。ランチメニューにある「ダルマッカーニー」(豆を使ったクリーミーでマイルドな北インドのカレー)がおいしいですね。店に伝えると
「他の店ではあまり作っていないようですから…」
と奥ゆかしい返事がありました。

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2017-09-14 大抜擢はなかなかないですよ

通訳エージェントも直接契約のお客さんも
「この通訳者、経験はないし実力のほどもよくわからないけど、一度使ってみようか」
ということはめったなことではありません。

プロのサービスを買うのですからあたりまえですね。私たちが何か物やサービスを買うときのことを考えてみればわかります。

それでは永遠に通訳者として世に出られないかというと、そうでもありません。現にちゃんと新たな通訳者が市場に参入しています(私の仲間も私もそうです)。

「階段一段飛ばし」や「特別エレベーター」の経験をする人もいないわけではない。しかし、大多数の通訳者は

  • 賃金や請負金額が安くて
  • 失敗が起こりにくい

仕事(顧客にとって低リスクの仕事)から始めることになります。そうして少しずつ信用度を上げていく。

するとどこかで仕事の難易度・重要度が上がる機会が出てきます。おもしろいことに、そうした場面は偶然によることも多い。仕事に行ってみたら当初聞いていたのと違う「一段上」の仕事をせざるを得なかったとか、エージェントが他の通訳者の都合がつかなくなってちょっと思い切って担当させるとか。

そうしたときに平常心で乗り切ってなんとかボロを出さないと
「次のステージへようこそ」
ということにつながっていくのでしょう。


立ち居振る舞い・各種連絡など、通訳者は全人的に常時評価されています。そうした「丸ごとの」印象はかなり重要だろうと思います。顧客やエージェントは通訳者の各技能・印象に点数を付けて「総合X点だからこの仕事をさせよう」という判断はしていません。最終的には
「たぶんだいじょうぶ」
というKKD(経験・勘・度胸)で決めているんじゃないでしょうか。


港区田町のネパール料理店「デウラリバッティ」のダルバート(ネパール定食)。ここと大森の「ナタ」、大塚の「ダルバート」は安心しておすすめできます。デウラリバッティは野菜のおかず(右下)と豆スープ(中央)がとてもおいしい。

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後日注:「ナタ」は「サーランギー」という店名になりました。「ダルバート」は閉店。同名の店が同じ場所に開店しました。