50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2022-12-28 自営と会社員との金銭面での比較

「なんとなく」ではなく、数字を使ってみようというお話です。


仕事を選ぶとき、とりわけ大きな変化を経るときには
「年収はいくら必要か・いくらほしいのか」
と考えてみることは必要だと思います。

仮に給与賞与額が年間1,000万円だとしたら、自営業(フリーランス)なら経常利益(売上ー経費)が1,500百万円くらいでようやく長期的な現金収入(厚生年金の受給額などを含めて)が同じくらいだろうと思います(この仮定が最も異論が出るところです)。

経常利益1,500万円とすると、経費率15%(年間の必要経費が265万円)として売上は1,765万円必要になります。

それではこの1,765万円は実現可能なのでしょうか。


大手通訳エージェントの中には客先向けの料金表を公開しているところがあります。いわゆる「定価」なので実際に適用されている価格はわかりませんが、とりあえずこの数字を使うと

1日料金 10.0万円
半日料金  6.5万円

あたりが相場のようです。これはエージェントが客に提示する価格ですから、通訳者に支払う額はエージェントの経費と利益を引いた額になります。経費率・利益率は企業秘密で、顧客ごと・通訳者ごとでも違うでしょうから想像するしかありません。ここでは試算のために 35% (注)としてみると通訳者に渡る額は以下のとおり。
1日 65,000円
半日 42,250円

年間の業務日数を平均で週4日と見積もると 4×52=208日
1日業務が30%、半日業務が40%、半日業務を1日に2件が30%と仮定します。

1日業務   65,000×208×30%=4,056,000円
半日業務1件 42,250×208×40%=3,515,200円
半日業務2件 42,250×2×208×30%=5,272,800円

合計は12,844,000円

フルタイムで業務可能なら妥当な数字のような気がします。


経費率を15%と仮定したときに必要な売上は1,765万円なので、480万円ほど足りません。日本で一般的なエージェントモデルで稼働すると会社員の年収1,000万円見合いの売上の実現はかなり難しいことになります。


仮定の数字に仮定の条件をあてはめて計算したちょっとした「頭の体操」ですが、もし上記のような結果が出るのならそこで考えられる選択肢は3つ。

  1. 会社員の給与賞与1,000万円相当を目標としない
  2. 自営の通訳業を選択しない
  3. 「日本で一般的なエージェントモデル」以外の通訳提供方法を考える

実際には上記2を選ぶ人は少なそうなので、1を受け入れるか3を取るかということになります。おそらく1が大多数。しかし3に進んだ人も確実に存在します。3の具体例は

  1. 顧客が通訳者に直接発注する業務を大幅に増やす
  2. 通訳者自らがエージェントになり、複数の通訳者を稼働させる業務を請け負う

ことになるでしょう。そして、この1と2は切り離せません。複数の通訳者の手配が必要になる仕事がありますし、自分が同時に複数の業務を担当できないからといって断るわけにはいきません。


たまには以上のようなことを考えると自分なりの「収入観」を持つ一助になるように思います。


以上の考察では単純化のためにフルタイムを想定して計算しています。フルタイムで業務をしない場合には前提が大きく異なってきます。そもそもたいていの企業では経常的な時間短縮勤務や季節勤務は現実的ではありませんから、自営を選ぶ可能性が高い。

注:エージェントの経費・利益率はビジネスモデルから考えて20~50%のはずです。その中間値を取りました。


隣の駅とそのまた隣の駅に「餃子の王将」があります。最寄り駅にもあるといいのですが。