50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2021-04-12 価格決定の枠組みは変わるか

新型コロナウイルス流行で通訳業界にも大きな変化が生まれる可能性のお話です。


多くの通訳者と同様、在宅で仕事をすることが多くなりました。2021年1月から3月の業務の約8割が在宅です。顧客の事務所で仕事をするときもすべて通訳者専用の部屋で遠隔会議に参加する方式でした。

遠隔会議は地上の会議よりも時間が短くなります。
・物理的に集合して着席する手間がない
・会議前後の雑談の時間がない
・長くなると疲れてしまう
・時差のある地域からの参加も多く、時間枠に制限がある

そしてこのことが通訳報酬体系に影響する可能性は大きいと思います。


通訳業界では「全日または半日」という建値制度を長年使ってきました。全日とは午前・午後の両方、半日は午前または午後の従事です。

理由として最も納得性があるのが通訳者の機会損失でしょう。通訳者が午前だけの業務を引き受ける場合には午後のみの業務を引き受ける可能性が残ります。午前・午後を逆にしても同様です。そのため半日料金を全日料金より低く設定しても(理屈の上では)通訳者は収入を極大化する可能性が残ります。

通訳者の「時間の買取」に近い考え方で報酬が決まっているわけです。この延長で出張時の「移動拘束手当」の支払いも正当化されます。移動中は他の業務を引き受けられないから報酬の補填が欲しい。しかし移動中は時間をある程度自由に使えるから通訳報酬と同程度の金額では高すぎる。「落としどころ」として「全日報酬の xx% 」といった手当の適用が一般化したと理解しています。

そして顧客の指定する現場で通訳を提供するには移動時間が必要なので、仮に通訳業務が半日よりかなり短く終わるとしても半日料金が正当化されます。


在宅勤務になるとこうした前提がかなり変わってきます。日本と北米をつなぐ早朝会議の通訳をした通訳者は、昼間のアジア域内の会議・夕方の日本と欧州をつなぐ会議で仕事をする可能性が残ります。遠隔で機動的に短時間の打合せをすることも増えました。仲間の通訳者から1日に複数の業務を担当する話をずいぶん聞くようになりました。

顧客も会議時間が短くなるのを意識するようになり、特に日本国外の通訳エージェントから「時間当たり通訳報酬」の見積もりを求められる場合が出てきたと聞き及んでいます。


新型コロナウイルスの流行が収まり従来型の通訳業務が増えて「時間あたり報酬」に対する要求が沈静化するか、それとも遠隔会議が常態化して通訳報酬の考え方も変わっていくのか。真実はおそらくこの二者の間のどこかになるように思います。変革期を目撃するかもしれないという柔軟な発想が必要だと考えています。


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