50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-09-10 心づかいの細かい登壇者

通訳者を効果的に使うすべを知っている方もいるというお話です。

米国人の基調講演を同時通訳する機会がありました。通訳エージェントからは
「特に原稿はないとのことです」
というよくあるお話。

ないわけないでしょ。改まった席で40分話すんですから。少なくとも要点のスケッチ(talking points)は必要なはずです。今までの経験だと
「資料なし」
のはずが当日スクリーンにスライドが20枚くらい出てくることもありました。

それでも先方から通訳者に対して
「打ち合わせ時間を設けてください」
というありがたいお知らせがありました。


当日の打ち合わせで登壇者は話の内容を実にわかりやすく手短に伝え、投影する画像についても一通り見せてくださいました。


講演は通訳を使わずに英語を聞く日本人のことも考えたような明瞭で落ち着いた語りでした。これは効果的な同時通訳のためにも大いに助けになります。


しかし本当の驚きは行事の最後でした。この登壇者が通訳者チームに近づいてきて
「事前に資料を出せずに本当に申し訳なかった」
と伝えてきたのです。
通訳者を味方につけるにはこれに勝るせりふはそうそうないでしょう。
「ああ、この方は『通訳者の取扱説明書』をよくご存じでいらっしゃる」
と感心します(ひょっとするといつもこの手で事前に資料を出さない(出せない)のかもしれませんが…)。