50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2018-10-13 雪の下で耐える

企業を退職して通訳学校に通って生活費を払うと、それはそれはおもしろいように預金残が減ります。キャッシュがぼーぼーと燃える音が聞こえるようです。

続けていけばなんとかなる場合もありますが、なんともならない場合もあります。

全員が「続けていけばなんとかなる」のなら、この世は通訳者だらけです。おしゃれな日用雑貨店や自然食カフェやヨガスタジオも街にあふれるでしょう。

持続可能性とは一定量の収入のことです。売上のない事業は続けられません。通訳学校に通い始めたとき、次の2点を「とりあえずの」目標にしました。

  1. 2年半以内にエージェントの名刺を持って通訳業務に出る
  2. 月間売り上げ 60万円。いきなりは無理だろうから、まず 40万円。


1.はさほど難しくありません。通訳者としての経歴がない場合には、一問一答のやりとりが多くて話が複雑にならないビジネスマッチング(売り手‣買い手のお見合い)が機会になる場合が多いように思います。

2.から個人差が出てくると思います。通訳者として世に出たばかりでは企業内通訳者(社内通訳者)のほうが報酬が高くて安定していますね。時給 2,500円なら月間 20日の勤務(正味の通訳稼働時間はずっと少なくても)で 2,500 x 8H x 20日 = 40万円。

いっぽう、大手通訳仲介会社での初級通訳者の報酬は 2万円~3万円でしょうか。経歴書がスカスカのうちは例外を除いて月間の稼働日数は10日に満たないことも多いですから、月間売り上げは 10~30万円。これでも例外的に運の良いほうだと思います(私の場合は最初の数か月間はほとんど仕事がありませんでした。ブログ「定年からの通訳デビュー」のモコちゃんパパさんも「毎日が開店休業状態だった」と書いていらっしゃいます)。


しかし、企業内通訳者は幹部候補人材ではなく「機能」として処遇されることがほとんどです。つまり技能が伸びて昇格・昇給すると天井に当たります。企業としては
「技能は伸ばしてくれなくていい。これ以上は払えない」
ということになります。

いっぽうフリーランス通訳者は顧客の要望に応える仕事をしていれば業務量は増えます(2016~2018年現在の通訳需要は特に旺盛だと感じます)。東京では通訳者は常に不足気味。単価の高い業務を計画的に(あるいは偶然で)増やしていけば月間売上 60万円はさほど難しくありません(一身上の事情で稼働日数に制限がある場合は別ですが)。

ただ 60万円(年額 720万円)ではまだ入社数年目の若手社員の実質所得にも及びません(将来受給する厚生年金・退職金の現在価値や社会保険料の事業主負担分のため)。80万円(年間売上 960万円)程度が一つのめどではないかと考えています。


「堂々たる通訳者人生」を送れ、というはなむけの言葉を通訳学校の恩師からいただきました。通訳者それぞれの解釈があると思います。私の場合は通訳の内容もさることながら、年間の通訳報酬も通訳者の勲章の一つだと思っています。

お客さんが対価を払ってくれる。従業員に給与を払い、工場に投資をし、研究開発に予算を割り当てる。そんな使い道のあるお金を通訳サービスに対して使ってくれる。これもまたすばらしい評価ではないでしょうか。


今回の記事はふだんあまり表に出ない具体的な金額を扱ってみました。私が通訳学校に通っていたときに手に入らなかった情報だからです。わずか1人の例ですが、何かの役に立つかもしれません。

通訳学校に通い始めてからのキャッシュフローを示しておきます。実際のところ、
「石の上にも四年」
でした。ようやく石が温まり始めたところ。ただ、今の東京の通訳市場はバブルなのかもしれません。What goes up must come down.

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※ 参考資料:通訳者・関根マイクの業界サバイバル・ガイド