だいたい前日までは気分が晴れません。どのような仕事でも安心して現場に入れることはありません。慣れた場所でも人と話とが新しいことがある。何度も通っている顧客でも部門が違うと別の会社かと思うほど違う。資料が多ければ十分に目を通すことはできません。会議室に入ったらテレビ局が入っていることもあるし、会談の相手側が連れてきた通訳者が「伝説の」通訳者ということもある。同時通訳のブースでイヤフォンから流れ出る音声がものすごく速かったり謎の英語だったりすることもある。
それでも不思議なことに当日の朝になると
「なんとなく、今日もなんとかなるのではないか」
という気分になります。起きて身だしなみを整え支度をする。階段を下りて電車に乗る。この日常の営みが良い影響をもたらしてくれるかのようです。
幸運にもこれまで真の意味での大失敗・大事故がなかったためかもしれません。父親が働いていた重工業の現場では数は少ないものの悲惨な事故がありました。朝元気に工場に出かけ、それが家族と過ごした最後になるということもありえたのです。私の勤務先でも業務上の災害で手足を失った人がいました。
不謹慎ながら心のどこかに
「訳が出なくったって、顧客に苦情を言われたって、最悪でも出入り差し止めになってエージェントとお別れするくらいのものじゃないか」
という思いがあるのかもしれません。
この意識と仕事で最善を尽くすこととは全く矛盾を生じません。できるだけの準備をし、あらん限りの誠実を尽くす。その後のことは通訳の神様のみが知る。
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ぐんぐん伸びよう!