50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2014-05-04 年金関係の英語

このブログ読者の中には The Economist を購読している方もいらっしゃると思います。

一般誌(The Economist 自身は「newspaper = 紙」だと言っていますが)でありながら専門用語に詳しい説明が付きません。

通訳ではあまり深い知識を求められても困りますが、内容がわかっていれば安心して訳せるのも事実です。

年金や労働法は専門でしたので、The Economist の記事を私がどう読んでいたかを参考までに…。

Apri 26th 2014 "A billion shades of grey" という高齢化社会特集の記事です。
Policy is partly responsible. Many European governments have abandoned policies that used to encourage people to retire early. Rising life expectancy, combined with the replacement of generous defined-benefit pension plans with stingier defined-contribution ones, means that even the better-off must work longer to have a comfortable retirement.
"generous defined-benefit pension plans" と "stinger defined-contribution ones" とはさほど難しくありません。用語集を見て
「手厚い確定給付型年金プラン」
「企業が損をしないような確定拠出型プラン」
と訳せば完全な通訳でしょう。

実務経験者にとり、現在の世界経済状況で確定給付型が手厚いと呼ばれるのは当然です。確定した年金給付、すなわち「年額いくら」を約束している年金です。仮に年金保険料を納める社員が減ったり低金利等で年金資金の運用益が減っても年金の支払額は変えられない。ではどうするかというと
・母体企業が穴埋めする
・受給者にお願いして支給額を切り下げる
しかないわけです。

いっぽう確定拠出型は拠出額(定年前に企業と社員とが毎月積み立てる額)を固定し、定年後の年金支給額はその運用結果に任せるというプランです。企業はリスクフリーになりますが、受給者にとっては一種の賭けですね。運用益が多ければ年金額が増えますが、その反対もあります。ブラックマンデーや 2008年金融危機といったことがあると、株への投資割合が多い年金原資は目減りする場合が多かったわけです。
The move away from corporate pension plans that provided a fraction of the recipient’s final salary in perpetuity will also have kept some people working longer.
"a fraction of the recipient's final salary in perpetuity" を目にすると、年金制度を知っている人は「確定給付制度」の言い換えだと理解します。退職直前の月給に一定率(たとえば 40%)を乗じたもの(a fraction)を年金の月額にし、それを終身で(perpetuity = 死ぬまで)払うという意味ですね。日本人の聞き手が最も理解しやすい通訳は
「最終給与連動型の確定給付終身年金から他の制度に移行する流れがあるので、仕事を続けようとする人も出てくるはずです」
といったものになります。


内容までしっかり理解していると元発言の表現が変わってもわかりやすい訳が出せる一例かと思います。金融には金融の、機械工学には機械工学の「定石」がありますから、簡単な教科書で良いので知識をある程度体系化しておく(単に訳語を詰め込むだけでなく)ことは必要でしょうね。