50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2014-04-23 sprachgefühl

雑誌 The Economist の記事を目で追って、紙面から目を離して再現(リプロダクション)をしています。

そろそろ1年になりますが、再現できる量・質の進歩はごくわずかです。米国のテレビドラマ風に言うと:
Good news is that there has been progress.
Bad news is that it is marginal.
という感じです。

取り組む方法を少し変えて、脳に異なった刺激を与えるのもいいかもしれませんね。この数日は再現する文の長さをやや長めにする練習も加えてみました。

「20単語程度の文ができるようになったら25単語程度に引き上げて…」
という漸増作戦も続けながら、時々は1パラグラフ程度を試してどの程度内容を把握したか(原文の正確な再生は無理としても)様子を見ています。


再現する練習をして親しんだ英文ですから、英語そのものの練習にもつながります。
「普通はこう言う」
という感覚(sprachgefühl、シュプラハゲフュール)を少しずつでも増やしていきます。

たとえばこのブログ記事の冒頭付近で
Good news is that there has been progress.
Bad news is that it is marginal.
と書きました。2つ目も現在完了じゃないかな、と日本人の私は思うのですが、何か違和感があります。Google で対象ドメインを英国(.uk)に限定して検索してみると
"that is marginal" は74万ヒットに対し、"that has been marginal" はわずか2ヒット(2万や2百ではなく、2)です。

調べるといろいろわかるのでしょうが、とりあえず 英語の論理で that が marginal であるというのは完了形ではありえない(らしい)ということがわかります。これを心に留めておくと次回に抽象的な概念について完了形を使ってあるときに「心のアンテナ」にぴぴっと来る…はず。


この that もなかなかやっかいです。YouTube で留守中にいたずら(破る・食べる・壊す)をした犬を飼い主が叱る画像がありますが、一般的に使われる非難が
Did you do that?
でした。ぼろぼろになった枕や雑誌を手にして叱っていますが、this ではなく that です。日本語だと
これやったの、おまえでしょ」
となるはずですね。


The Economist の記事での例を見てみましょう。
「今年の春の雪解け時に市民から寄せられた苦情はいつもの3倍だった」
というときに
The spring thaw has brought three times the usual number of complains from citizens.
と書いています。日本人だと
three times more complaints
と言う人が多いかもしれません(いや、私だけかもしれませんが)。
簡潔を旨とするこの雑誌でもわざわざ the number of complaints と書いていますから、英語では three times と数字を出したらやっぱり number と言いたくなるのかもしれません。これもまた心のノートに書き留めておき、母語話者と話すときに尋ねてみたいと思います(多くの場合忘れてしまうのですが)。