50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2014-04-09 困難は分割せよ

わたしが検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること
デカルト 方法序説 谷川多佳子訳、岩波文庫 1997年)
伝授可能な通訳技能というものはないだろうという記事を先日書きました(2014-04-05 通訳学校って、何だ?)。

だからといって、学習に徒手空拳で臨もうというのではありません。完全な練習方法はなくても、より良い練習方法は自分で作り出すことができそうです。

たとえば同時通訳の入門練習。

初学者がいきなりBBCやCNNのニュースや国連でのスピーチを同時通訳しようとしても、そりゃ無理というものです。それでも体当たり的に何度も何度も繰り返していけばその1本の記事はできるようになるかもしれませんが、それは同時通訳技能のうち、「出来上がった訳を尺を合わせて乗せる」部分だけの練習かと思います(これにも意味は大いにありますが)。

難しい内容を難しい速度で再生して難しいこと(同時通訳)をするなんて、ガスレンジを気にしながら足下のゴキブリを追って頭上の蠅も追い払うようなものです。

デカルトの話を謙虚に聞きましょう。

まず速度を落としましょうか。VOAの Special English (速度 2/3、語彙制限)や NHKニュースで英会話」の再生速度「普通(=slow)」を選ぶ。あるいは通訳学校の教材を再生ソフトで速度を落として再生する。

学校の教材なら一度使っていますし、ニュースなら構文は簡単で内容は一般的なことが多い。

まずこうして「型」を作っていく感じでしょうか。耳から情報が入り続けながら口は訳を出し続ける。普通の生活ではありえない「ヘンなこと」を「あたりまえのこと」に近づけていく。

できるようになったら速度を速めるか、訳の精度・体裁を改善するか、内容を難しくするか。要素別の調整ダイヤルを一度に1つだけ、ちょっと難しい側に回すつもりで練習。失敗率が高くなったら背伸びのしすぎなのでダイヤルを戻す。しわになったシャツのアイロンがけや自動車のワックスがけと同様、早道はないのだと思います。


長さを伸ばすのが効きそうですね。淡々と影を踏むように(遅れず追いつかず)ついていく感覚を身につけるのが大切じゃないかと思います。短い音声だと元発言が終わって(入力が終わって)からずるずるとしばらく訳出して、ほっと一息、という逃げ道がありますので…。