50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2022-12-19 遠隔同時通訳での通訳者交代方法(Zoom)

在宅で遠隔同時通訳を担当するときに特有の事情が通訳者の交代です。


同時通訳はたいてい2名ないし3名、場合により4名の通訳者が短時間(10~30分)で交代して実施します。通訳者チームが同じ場所にいれば目配せやちょっとした手の動きで交代の合図を交わせますが、通訳者がそれぞれの自宅等から参加するとこれができなくなります。新型コロナウイルス流行によって遠隔同時通訳の件数が増え始めたときに課題となりました。


遠隔同時通訳が一般的になって2年以上経過し、交代方法も確立してきたように思います。

KUDOやInteractio、Interprefyといった遠隔同時通訳専用のプラットフォームを使う場合にはソフトウェアの仕様に従って交代します。各社で設計思想が少し異なりますが、すぐに慣れます。物理的な同時通訳コンソールに似た操作ができるようになっています。


もう少し複雑なのがこうした専用のプラットフォームを使わない場合です。その中でも現在(2022年12月)では Zoom とそれ以外という区分ができそうです。


Zoom の言語通訳機能を使う場合:

会議/ウェビナー主催者によって通訳者の役割を割り振られると通訳者は会議室やウェビナーで発言ができなくなります。あたかも「通訳ブース」に入る感じです。通訳者の声は通訳出力チャネルのみに流れていきます。

Zoom の同時通訳の注意点は通訳者が他の通訳者の訳出音声を聞けないことです。通訳者Aが通訳チャネルに流している音声はメイン音声のみを聞いている通訳者Bに聞こえないのです。

このため交代にはちょっと工夫が必要です。

  1. 電波で補正された時計(PCやスマートフォン)を使って時間を計測し、訳出中の通訳者がマイクをミュートするのが合図。次の通訳者は Zoom の参加者ウィンドウで先行の通訳者のアイコンでミュートを確認して訳出開始。
  2. 上記の方法で、時計の代わりにオンライン共有タイマー(Chronograph や Cuckoo など)を使う。タイマーを止めるのが合図。
  3. 上記2つの方法に加え、別回線(別の電子会議室や通話アプリ)で通訳者はパートナー通訳者の音声をモニタする。
  4. 上記別回線の代わりに主催者に依頼して通訳者に追加の主会議室への参加招待を送ってもらう。通訳者は一般聴衆としても参加し、通訳音声を選択してパートナー通訳者の訳出を聞く。

1 → 2 → 3 → 4 の順で正確さ・確実さは向上しますが、手間も増えます。私は主に 3 ですが、1 や 2 でも慣れればなんとかなると感じています(主に社内会議)。

 


神奈川県大和市スリランカ料理店「ロイヤルグリーン」の昼定食。



2022-12-18 2022年は忙しかったが、それは自ら招いたこと

忙しくなると今後のことを考えるようになるというお話です。


毎年年末に翌年の簡単な目標をノートに書き込んでいます。
・どんな分野の仕事をしたいか
・どの客先の仕事を重点的に引き受けるか
・年間売り上げがどのくらいになるか

通訳専業になった2014年から今年までの年間通訳報酬をグラフにしてみました。比較のため純粋な通訳報酬のみの数字を使っています(移動拘束費・交通費・宿泊費・日当・消費税を除く)。

2019年に大きく伸びたのがわかります。定期的な会議で通訳する仕事が増えた時期です。新型コロナウイルス流行で2020年にはだいぶ落ち込みましたが、遠隔通訳の需要がすぐに伸びて2021年には2018年の実績を上回りました。翌2022年には定期的な仕事以外の受注も増えて2019年を大幅に上回っています(12月16日までに打診があった数字なので、実際にはもう少し伸びるはずです)。


今年をふりかえると、
・かなり受け身
・実質的に数社の社内通訳者的な役割も多い
ということがわかりました。

受け身というのは、自ら市場を開拓したり特定の方針で仕事を引き受けることはせず、エージェントや顧客の依頼があれば日程が許す限り引き受けてきたという意味です。引き合いの数が多かったのであまり深く考えることなく喜んで担当してきました。コロナで仕事量が激減した記憶があるので、仕事量を確保しようという思いもありました。

企業の週ごと・月ごとの会議を定期的に担当したことも業務量の確保につながりました。いわば複数の会社で社内通訳者を掛け持ちしたようなものです。組織名・業務内容に慣れるので準備の負担が減り、訳の品質も向上します。そのいっぽう同じ日に打診のある他業務を断ることになり業務や顧客の多様化という点で制約が生じるのも真実です。


今後どうしたいのか、年末年始で考えてみます。


神奈川県川崎市のネパール料理店「ママガル」のダルバート(ネパール定食)。豆スープも鶏スープもとてもおいしい。昼のメニューでこれが最も低価格なので、同胞への提供を主に考えているのかもしれません。品数が少なく地味に見えますが、しっかりと作ってあるので満足感はとても高い。



2022-12-13 通訳ワークショップ 1月21日(土)東京都港区

一般社団法人日本会議通訳者協会が主催する通訳ワークショップのお知らせです。

久しぶりの対面会場実施ならではのライブプレゼンテーション形式による逐次通訳(英→日)の講習になります。

私も経験があるのですが、録音・録画素材ではない「生の語り」を素材にする通訳演習は一味違います。人間は聞こえてくる音が録音なのか生なのかすぐに識別します(路上ライブ等でおなじみの体験ですね)。目の前でだれかが話しているのを訳す練習による学びは深く印象に残るものです。

  • 現場に出てお客さんが伝えたいことを通訳する生の体験ができる
  • 学習仲間を「通訳を必要としている聴衆」と考えると、自分中心ではなく聴衆中心の発想が得られる


過去にもこうした経験を書いていました。

「遅れてやってきた通訳者」(日本会議通訳者協会ウェブサイト)

の中段「心の持ちよう」の部分です。

今回は私も講師として参加することになりました。顧客や通訳者仲間から絶大な信頼を寄せられているセス・リームスさん・大学で通訳を研究し講師経験もある佐藤梓さんと同じ場所でセミナーを担当できるとは思っていませんでした。通訳業も続けているといろいろなことがあるものです…。

さらにセミナーには通訳エージェントで通訳者手配をしている方を招いて求められる通訳者像などを聞いていきます。


【1/21】逐次通訳(英日)ライブプレゼンワークショップ(東京・対面)

 

2022-11-27 先のことはなかなかわからない

主要顧客も変わっていく可能性があるというお話です。


私の客先別年間売り上げで2019年・2020年に2位・3位のお客さんとの取引が諸事情でなくなりました(不可抗力や合意の下でのお話で、不祥事や喧嘩別れではありません)。不思議なものでその翌年には他のお客さんへの売り上げが伸びて年間総額が前年を上回っています。

一喜一憂すべきではないことを学びました。

そして、今年急速に取引が増えているお客さんがあります。

取引を開始した2020年の額を100とすると、2022年は789まで増えて私にとって取引高第1位になっています。

2020年 100
2021年 148
2022年 789


昔に縁のあった方が転職した先で紹介してくれたエージェントです。第2位は同業者の集まりでステーキを食べているときに通訳者仲間が紹介してくれた会社。他の多くの仕事と同じで人と人とのつながりが思わぬ展開につながります。


やきそば二題。「王将」と「ルーフトップビアガーデン ヨコハマ」
どちらも予想を上回る美味しさでした。




2022-11-12 パレートの法則

通訳者も他の自営業者とおそらく同じで、少数の顧客に対する売り上げが全体の大部分を占めると思います。パレートの法則によれば

売り上げ全体の8割は2割の顧客からもたらされる

ということですが、私の場合今年取引のあった24の顧客のうち上位8件で売上の8割になっています。

上位3件で全体の半分になります。


いろいろな縁で仕事を引き受けるので取引先の数は多いほうではないかと思います。どの顧客も大切なのですが、その一方めったに受注のない顧客の予約があるために大口顧客の業務を引き受けられないこともありえます。そう考えると取引の量が将来増える可能性がない場合には新規顧客からの仕事を積極的に取らなくてもいいのかもしれません。

通訳者仲間からの依頼は別です。自分が引き受けられなくて困ったときにはお互いさま。


通訳需要が非常に旺盛な今、引き合いを断ることが多くなっています(1件の引き受けあたり5件ほど断わっています)。これは発注側・受注側の双方にあまりよいことではないですね。どの顧客からどの程度受注していくかという事業方針も考えたほうがいいのかもしれません。


たまには日本らしいものも食べてます。

 

2022-10-17 Laggards(遅滞層)

マーケティングの用語でよく知られている E. Rogers 教授提唱の「イノベーター理論」。新商品を買う際の消費者を行動別に5つに分けています。

  1. イノベーター なければ自分で作ってしまう層
  2. アーリーアダプター 流行に敏感で情報を集めて試す層
  3. アーリーマジョリティ 平均よりは早く導入する層
  4. レイトマジョリティ 様子見をしてから導入する層
  5. ラガード 新商品が主流になってから導入する層

私の場合、コンピューターのOSは上記の2ですね。ベータテストが終わって正式ダウンロードが可能になるとすぐにインストールしてみます。主要アップデートも同様。Windows11 の 22H2 もすでに適用しています。

いっぽうでPHSから折り畳み式の携帯電話に切り替えたのが2014年8月、スマートフォンに替えたのが2020年3月と、電話についてはラガードもいいところです。

外部事情による必然性が生じてようやく電話の変更をしています。出張先の作業地でPHSの電波が届かないところがあったので携帯電話に移行。新型コロナウイルスの流行で在宅電話会議の注文を受けてからあわててスマートフォンに移行です(持っていた携帯電話にヘッドセットジャックがなかった)。

スマートフォンの契約は危ういところでした。店で即日受取の翌日からコロナ対策で店舗が一時営業停止。その電話を使った業務は翌日でした。


そしてスマートフォンを使い始めてから2年半してようやく Google カレンダーを使い始めました。これも外的要因がきっかけです。紙の手帳を駅に落としてしまい青ざめました。仕事の予定がわからくなります。仕事の照会が来てもその日が空いているかがわかりません。幸い数時間のうちに駅の改札で受け取ることができました(JR東の遺失物の登録が迅速で助かりました。遺失物事務所に行ったら係員が端末で照会して「まだ改札事務所にあります」と教えてくれました)。


通訳者仲間が半ば呆れてオンラインカレンダーを勧めてくれました。クラウドデータが失われたりアクセスできなくなるリスクよりも紙の手帳を失った場合のリスクが大きいことにようやく気付きました。

Google カレンダーの最大の利点はデバイススマートフォンやPC)が故障したり紛失したりしても別のデバイスで同じデータを見ることができる点ですね(何をいまさら…)。しかし使ってみると予定の記述に集合場所を Google Map のリンクで示したり、エージェント担当者のメールアドレスを張り付けたりとかなり便利なことがわかりました。


PDFにタブレット用のペンでノートを取ったり遠隔通訳用のマイクやイヤフォンを使う様子は現場やソーシャルメディアの投稿でわかりますが、他人の日程管理はなかなか見る機会がないので自分が取り残されているのに気づきませんでした。


今年も実を付けました。



2022-10-16 通訳サービス市場

市場としての効率は良くないながらも、通訳者にとってはそれなりに機能しているというお話です。


通訳手配の仕事は外部から見るとずいぶん非効率かもしれません。

  1. 通訳を使いたい人 (A) が通訳手配会社 (B) に見積もりを依頼
  2. 見積もるからには受注の可能性があるので B は通訳者 (C) に仮発注(優先権の確保)
  3. C が「その日は空いていない」と回答すれば他の通訳者に打診
  4. ここまでですでにメールの総数は 10 を簡単に超える
  5. A の日程が変わったり C に別の引き合いがあったりすると B は大忙しとなる。A にも C にもその他の通訳者にも連絡をする
  6. A が別の通訳手配会社にも見積もりを依頼していて価格や提案で B が負けるときもある
  7. C もB からの仮発注がなくなれば別の通訳手配会社に「この日が空きました」と伝えて仕事を確保しようとする

といった具合です。公開で公平な市場にはこうした「自由なゆえに非効率」という側面がありますね。


通訳者にとって良い面もあります。会社勤務ではいまだに色濃い各種の差別(国籍・容姿・学歴・年齢・長時間拘束の可否)がほとんどありません。顧客の期待に応えていればそれなりに評価され、積極的に宣伝しなくても仕事は向こうからやってきます。直接かかわる関係者、つまり

  • 顧客(通訳を使う人・組織)
  • 通訳手配会社
  • 仲間の通訳者

の期待を裏切らないようにしてさえいれば生き残れます。期待を上回れば通訳者が望む仕事や報酬が得られる確率は高くなります。そして、通訳者報酬の相場は投入する時間や労力に対して低くはありません(低報酬や悪条件のために業界から抜け出そうとする通訳者は少ない)。

注意が必要なのは、通訳手配会社が主な顧客の場合は仕事の量を「ほどほどにする」のは簡単ではないことです。発注側にとって依頼すれば引き受けてくれる通訳者はありがたい存在です。ですから、忙しい通訳者の名前は通訳手配担当(コーディネイター)の記憶に残りやすく、通訳ユーザーからの苦情がない「安全で頼りになる通訳者」を引き続き起用しようとする強い動機が生まれます。

仕事量を抑えるなら、通訳手配会社との相互信頼関係が重要でしょう。通訳者の事情を理解して「少な目に継続して発注」してくれるようになればすばらしいと思います。


自宅で画面を見ながらの遠隔通訳とは違う世界。