通訳者が最終顧客から通訳サービス提供を直接請け負うときの注意点についてのお話です。
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身もふたもない結論は
「通訳者の考え方・指向・好みに応じて」
ですね。会社員かフリーランスか、といった問いと同じです。どちらが良い・悪い、どちらが得・損という話ではありません。
直接取引のほうがなんとなく「かっこよく」見える場合には、まず直接取引とエージェント仲介取引との両方を頭の中で体験してみることをおすすめします。
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直接取引で最も難しいのは
「請負範囲を決める」
ことです。通訳者と顧客は各自が何について責任を負うかはっきりと理解して合意する必要があります。エージェントモデルではこの部分をエージェントが担当しているので顧客も通訳者もかなり楽ができています。言われたとおり行動すればいいのですから。
請負範囲を決めるのはコロナウイルス流行下の会議で複雑さを増しました。以前は会場が決まって逐次か同時かを選択すれば選択肢はさほど多くありませんでした。今は会議にだれが・どこから・どのように参加するかが多様になっています。それに応じて会議の様式(会場・会場+オンライン・オンラインのみ)を決め、通訳プラットフォームや会議運営方法を選ぶ必要があります。
会議の様式が決まったら、次に主催者側と通訳者側の責任範囲を決めていきます。
・プラットフォームの手配
・話者への連絡と技術面の説明
・司会や運営側への技術面の説明
・通訳者の手配
・機材の手配
・予行演習をするのか、するのならいつ・どのように
・エンジニアの要否、エンジニア役はだれが担当するのか
など。
通訳者が担当することにはすべて対価が発生するのが基本です。厚意で意見を伝えるのはかまいませんが、何か言うと責任が生じます。それなら請負範囲として明示して報酬を受けるべきです。
恐ろしいのは主催者・登壇者・通訳者がそれぞれ
「あの部分についてはあの人がうまくやってくれる(はず)」
「あの点についてはあの人がわかっている(はず)」
「これは常識」
と思い込んでいて、それが現実と異なるときです。
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まず初めに確認すべきは、顧客が一括サービス(full turnkey)を期待しているのか、それとも通訳者だけを求めているのかですね。会議運営の経験があったとしても、次の会議をどうしたいかは前回と違うかもしれません。
そして、注意点や確認事項は小出しではなくて一式で提出することが望ましい。後になって
「それだったら最初から言ってよ」
「知ってると思ってました」
ということになると良好な関係に悪影響が及びます。
顧客の担当者が通訳について非常に「ふわっとした」理解しか有していないことはけっこうあります。
ビジネスの基本は
「すると言ったことは必ずする」
「すると言わせたことは必ずさせる」
「すべてのことに責任と値札が付いている」
ことにあるのは思い出しておくべきです。
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以上の点から、顧客との交渉と見積書の作り方、記録の残し方が非常に重要になります。
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いっぽう直接契約の利点も多くあります。
・他の客を紹介してもらえる
・エージェントモデルよりも事務経費が低いので通訳者の手取り報酬は高め
・信頼できる通訳者に担当してもらうことができる
・依頼し、依頼されることで通訳者相互のネットワークができる
・現場を誰よりも知る通訳者本人が各種設定に関与できる
・顧客を「教育」できる
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危険な予感がするときもあるかもしれません。そのときには深入りせずに顧客にエージェントを紹介してエージェントにワンストップサービスを提供してもらいましょう。そこで通訳者として指名してもらえばよい。
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意図せず「直接取引になってしまった」ときのためのセミナーを担当します。
はじめての元請
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今年も盛りだくさんです。
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