50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2021-04-26 業務量はあるが、傾向は異なる。

昨年(2020年)の4月は月間売り上げが2017年以来最低の月でした。当時はどうなることかと思いましたが、今年の4月は開業以来第5位の月になりました(直前の3月が月間売上で過去最大)。

月間の業務日(仕事があった日)が18日、業務回数が 27回。長期出張で同じ現場に入る以外ではほぼ上限といえると思います。

以上が良いニュースだとすれば、受注先の数が限られていたのが懸念材料です。受注は私の努力ではなく、偶然の産物でした。新型コロナウイルス流行で通訳市場も大きな影響を受け、業務形態や顧客の構成が変わったという話を仲間の通訳者からもよく聞きます。当座を持ちこたえたら次になにをするか考えないといけませんね。


横浜市緑区の「ルシインドビリヤニ」は南インド料理専門。調理担当の2人は共にタミールナドゥ州から来ているそうです。

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緑が濃くなり、光も強く。

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2021-04-12 価格決定の枠組みは変わるか

新型コロナウイルス流行で通訳業界にも大きな変化が生まれる可能性のお話です。


多くの通訳者と同様、在宅で仕事をすることが多くなりました。2021年1月から3月の業務の約8割が在宅です。顧客の事務所で仕事をするときもすべて通訳者専用の部屋で遠隔会議に参加する方式でした。

遠隔会議は地上の会議よりも時間が短くなります。
・物理的に集合して着席する手間がない
・会議前後の雑談の時間がない
・長くなると疲れてしまう
・時差のある地域からの参加も多く、時間枠に制限がある

そしてこのことが通訳報酬体系に影響する可能性は大きいと思います。


通訳業界では「全日または半日」という建値制度を長年使ってきました。全日とは午前・午後の両方、半日は午前または午後の従事です。

理由として最も納得性があるのが通訳者の機会損失でしょう。通訳者が午前だけの業務を引き受ける場合には午後のみの業務を引き受ける可能性が残ります。午前・午後を逆にしても同様です。そのため半日料金を全日料金より低く設定しても(理屈の上では)通訳者は収入を極大化する可能性が残ります。

通訳者の「時間の買取」に近い考え方で報酬が決まっているわけです。この延長で出張時の「移動拘束手当」の支払いも正当化されます。移動中は他の業務を引き受けられないから報酬の補填が欲しい。しかし移動中は時間をある程度自由に使えるから通訳報酬と同程度の金額では高すぎる。「落としどころ」として「全日報酬の xx% 」といった手当の適用が一般化したと理解しています。

そして顧客の指定する現場で通訳を提供するには移動時間が必要なので、仮に通訳業務が半日よりかなり短く終わるとしても半日料金が正当化されます。


在宅勤務になるとこうした前提がかなり変わってきます。日本と北米をつなぐ早朝会議の通訳をした通訳者は、昼間のアジア域内の会議・夕方の日本と欧州をつなぐ会議で仕事をする可能性が残ります。遠隔で機動的に短時間の打合せをすることも増えました。仲間の通訳者から1日に複数の業務を担当する話をずいぶん聞くようになりました。

顧客も会議時間が短くなるのを意識するようになり、特に日本国外の通訳エージェントから「時間当たり通訳報酬」の見積もりを求められる場合が出てきたと聞き及んでいます。


新型コロナウイルスの流行が収まり従来型の通訳業務が増えて「時間あたり報酬」に対する要求が沈静化するか、それとも遠隔会議が常態化して通訳報酬の考え方も変わっていくのか。真実はおそらくこの二者の間のどこかになるように思います。変革期を目撃するかもしれないという柔軟な発想が必要だと考えています。


神奈川県大和市小田急江ノ島線「南林間」駅近くのベトナム料理店「カムオン」はおすすめできます。料理が洗練されていて店内も広くて明るい。フォー(米の麺)がとてもおいしい。

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2021-04-11 現実は直感と違うからデータが必要

「なんとなく」の印象は事実と異なるときがあるというお話です。


昨年(2020年)は4月から売り上げが大きく落ち込みました。なんとか生計を立てるだけの業務日数になったのは8月からです。それ以来
「仕事の量が減った」
という経験が強く心に残っていました。

そして今年3月に月間売上の最高を記録していました。実感はあまりありません。数字を見て少し不思議な気がします。理由は…
・顧客のプロジェクト単位の需要で、事前準備にあまり追われなかった
・在宅勤務で時間的には余裕があった
からではないかと思います。

過去の月間売上の上位は
1  2021年  3月
2  2019年  7月
3  2019年10月
となりました。この3か月に共通しているのは
・半日の短い業務を数多く請け負った
・特定顧客のプロジェクトに従事した
ことです。異なる主催者の様々な会議に次々に呼ばれたわけではないので、
「卵を1つのかごに盛っている」
不安定さがあります。それでも業務の手ごたえ(通訳者が価値を提供している実感)は十分にあるので結果としては良かったと言えます。


コロナウイルス流行による急激な変化の時期はもう過ぎていて、新たな局面を考える時期なのかもしれません。


光の量が多くなった感じ。

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2021-04-05 会議室2回線の同時通訳

電子会議室2回線の同時通訳の設定についてのお話です。


コロナウイルス流行の前もありましたが、最近になって一段と増えたのが
「実況中継型」同時通訳。

日本人が主体で日本語進行の会議を外国人参加者に伝えていくのが主目的の通訳です。状況としては以下のようなもの。
・監督的立場にある外国人が状況を知っておきたい(発言は特に必要ない)
・同時通訳プラットフォーム(InterprefyやKUDOなど)の費用をかけたくない


たいていの場合遠隔会議室(Teams や Webex、Zoom など)を2つ使います。
・会議室A 主会議室
・会議室B 通訳音声用会議室
外国人参加者と通訳者は機器を2台用意し、1台でAに、もう1台でBに接続します。

通訳者はAの画面を見てAの音声を聞き、同時通訳の訳出をBに入れます。外国人参加者はAの画面を見てBの音声(通訳者音声)を聞きます。Aの音声も流しておくことが多い(だれが発言しているかを知るため)。


この方法は主に一方通行の同時通訳でのみ成立すると考えるべきですね。通常の同時通訳のように日→英・英→日の切り替えをするのは曲芸になります。

日→英:通訳者はAをミュートにしてBをアンミュート
英→日:通訳者はBをミュートにしてAをアンミュート

という作業が必要になるためです。以下のような設定をすれば実用になりますが、これを通訳者個人が用意するのはひと手間でしょう。

このブロック図では現在 日→英 の通訳をしている状態です。

電子会議室ソフトウェアは発言者の声は発言者に聞こえないようにしているので通訳者の声が通訳者のイヤフォンに「戻ってしまう」ことはありません。

 

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※ 私に思い違いがあるかもしれません。ご指摘・ご意見をぜひコメントまたはメールでお寄せください。メールアドレスはブログ筆者のプロフィールに記載しています。

2021-04-03 短周期バブル

周期の長い変化の中に周期の短い変化が入っているというお話です。


2021年3月の月間正味売上(税抜・交通費や拘束費を除外)が2014年の開業以来第3位でした。半日の業務が多かったので件数は28件。

数字だけを見るとコロナウイルスの影響をほとんど感じないのですが、内容は以前と同じではありません。「いつものお客さん」の仕事がほとんどで、新しい顧客や新しい分野の仕事はかなり少くなりました。

3月に忙しかったのは以前からのお客さんの通訳需要がたまたま多かったということかもしれません。半年単位の中長期的な傾向では2019年の状況にはまだ遠いと感じます。私が担当する仕事が急減する可能性はあると思います。


通訳者仲間に教えてもらったすばらしいポッドキャスト How I Built This でプロジェクト管理ソフトウェア JIRA の開発元 Atlassian の創業者のインタビューを聞きました。シリコンバレーから遠く離れたオーストラリアだからこそ投資家や他社の「雑音」が入らずに自らの強さを見つけて腰を据えて事業を発展させることができたと述べています。

求めに応じて通訳サービスを提供するのが通訳者の仕事ですが、どのような仕事をするのか少し長い時間軸で考えるのも大切ではないかという点を伝えてもらった気がします。


今日は上流を見ています。何かを待っているのでしょうか。

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少し下流には花壇。

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2021-03-28 訳語は保守的に

訳語は保守的に、用心深く出したほうが安全というお話です。


「加工」・「工作」・「製造」がそれぞれ特有の意味を持つ企業があるかもしれません。「製品」・「商品」・「完成品」・「品目」の意味は違うかもしれません。

事前資料がないときにはとりあえずこうした用語が出てくるたびにノートしておいたほうが安全だと思います。訳出用のノートと別に用語のためのノートを用意しておくといいですね(仲間の通訳者に教えてもらいました)。

訳語はとりあえず一対一の対応になるよう機械的に決めたほうが安全な気がします。話が進んでわかってきたら修正してもいいでしょうね。聞き手を困惑させないよう注意しながら…。場合によっては
「通訳者からの訂正です。△△はAという意味で、◆◆はYという意味でした」
と説明する場面もあるかもしれません。

蛇足ながらこの
「通訳者からの訂正です」
と言えることも通訳者に必要な矜持だと思います。通訳者が発することばは原則として話者が発したことばなので、通訳者の発言は区別しなければいけないはず。


立派なベトナム料理店が開店していました。

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2021-03-26 自営業者の「年収」

自営業(フリーランス)の年収額についてはご用心というお話です。


「あなたも翻訳家になれる」といったウェブ広告が常に出回っています。
「経験1年で年収XX万円」
などと景気の良い話もしていますね。

経験年数についてはとりあえず置いておいて、年収の定義には注意が必要でしょう。

具体的な例を挙げます。

大きな数字で印象付けるために
12,000,000円(1千2百万円)!
とブチ上げた数字があるとします。

実は…

消費税を含んだ額かもしれません。そうすると本体価格は
10,909,090円
ですね。

ひょっとすると仲間の通訳者に手伝ってもらっているかもしれません(再委託)。外注費が 30% あったとすると自分の取り分は
7,636,300円
ですね。これが個人分の正味売上となります。

ただ、給与所得者の給与と比べるなら利益額を求める必要があります。翻訳の場合案件ごとに必要な支出がないとしても固定費が必ずあります。コンピューター、辞書、インターネット接続、各種調査、さらには事務所費(家賃・用水光熱費)。仮にこれが正味売り上げの 20% だとしましょうか。そうすると利益額は
6,109,000円
になります。めいっぱい膨らませた額の半分になっちゃいましたね。


そして自営業者はここから国民健康保険料を支払います。厚生年金保険の被保険者ではありませんから保険料を払う必要がない代わりに将来の厚生年金(国民年金よりかなり手厚い)の受給もありません。仕事が途絶えても雇用保険の失業給付もなし。出産・育児で休んでも会社員のように社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が免除になることもありません。心身の不調で休んでも傷病手当金(健康保険の制度)はありません。


数字が出てくるときにはその定義を考えてみることが大切だと思います。

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ダイサギのダイちゃん(仮称)。羽がすごくきれいでした。