50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2020-08-25 醍醐味

通訳を生業にしていると、ときどきとてもうれしいことがあるというお話です。


「今日はうまいこと訳せた」
と感じることはまずありません。むしろ
「もっと良い言い方があったな」
「ひょっとすると通訳者の理解が及んでいなかったのかもしれない」
「お客さん相互がわかり合っていたようだから、あれでよかったのだ」
といった感想を持つことが多いですね。

元の発言に迫ろうとするけど、決して同一にはなりえない。絶対的な正解のないことをしています。


それでもうれしいことはときどき起こりえます。そんなことが最近もありました。直接契約で通訳を提供しているお客さんの業務日に私の予定が合わなかったので、信頼する通訳者を2人紹介して現場に出てもらいました。

うれしいことは3つ。

  • まず、その通訳者2名が引き受けてくれたこと。仕事の中身もあれこれ尋ねられませんでした。
  • 次に、お客さんは何の疑問も持たずにその2人の手配を決めたこと。
  • そして、その次に私が出向いたとき
    「良い通訳者を紹介してくれてありがとう」
    と感謝されたこと。


自分の代わりをしてくれそうな人を知っているだけではちょっと足りない。実際に現場に行ってもらえるかどうか。こうしたことが個人事業主間のゆるやかな、しかし相互信頼に基づいた関係の基盤になるように思います。


崎陽軒の「おべんとう 夏」。崎陽軒の弁当はけっこう好きです。

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2020-08-22 The Web Kanzaki の思い出

インターネット上に何か書くときにいつも心の隅にある教えのお話です。


World Wide Web (WWW) がなぜ生まれたかについて、たまには少し考えてみるのも悪くありません。私にとっては
「それなら、ここにあるよ」
と、情報のありかを示す便利さを提供してくれるもの。

先人や世界のどこかの人の成果を相互参照できるという、聞いただけではずいぶん単純な機能がものすごい勢いで広まって浸透しました。


通訳者になるなんて夢にも思わなかった2003年にウェブページを書きました(社会保険労務士の受験記録でした--現在閉鎖中)。まだ「ホームページ」という呼び方のほうが一般的だった時代です。そのときに主に参照したのが神崎正英さんの The Web Kanzaki というページです。懐かしくなって検索したらしっかりと更新が続いています。

The Web Kanzaki の「WWWで情報発信しよう」を読んだからウェブページを書いたりブログを立ち上げたりする気になったといっても言い過ぎではないと思います。


なぜこんな昔ばなしをするかというと、つい最近このブログの記述誤りをメールで知らせてくれた方がいらしたから。The Web Kanzaki には「何か書いてインターネットに公開したら、著者への連絡手段を明記しよう」といった意味のことが書いてありました。このブログにも比較的わかりやすく私のメールアドレスを記載しています。

閉じたコミュニティよりは開かれたコミュニティ。ウェブに公開したものはみんなもの。このブログをアメブロから はてな に移行したのもこの考えからです。ブログの基本機能は記事の公開、コメント、トラックバックアメブロは少し「方言」が強すぎると感じました。私が はてな に移行した当時は(現在も?)自分が書いた記事なのに他のブログプラットフォームに読み取れる形式でダウンロードできないことに危惧を抱いたのも理由の一つです。


ヒグラシの鳴き交わしはなんともいえません。さざ波のようです。

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2020-08-20 ブロック図を描こう

紙に書くとはっきりすることはいろいろあるというお話です。


A言語で進行する会議をB言語に通訳して送り出すという仕事がよくあります。

会議室音声をスマートフォンで受信し、遠隔会議システムに訳出を送るという組み合わせもありえます。こんなとき、どう準備すればいいのか。

紙にブロック結線図を描くことを強くお勧めします。頭の中だけでは問題点に気づかないおそれがあります。


この例で最初に思いついたのは、

  • スマートフォンの4極ミニプラグに3極ステレオプラグを差し、それをミキサーへ(ソース音声を聞く)
  • PCの4極ミニジャックにアダプターケーブルを差し、オーディオ出力とマイク入力に分岐
  • オーディオ出力はミキサーへ(パートナー通訳者の音声を聞く)
  • マイク入力には訳出用マイクを接続

という構成です。しかしブロック図を描いて問題が見えてきます。PCの4極ジャックを出力/入力に分岐させる二股アダプターケーブル経由では4極プラグのヘッドセットのマイクが動作しないんじゃないか。

エレクトレットコンデンサーマイクには電源が必要だということを意識している通訳者はけっこう少ないと思います。音声信号用の線に直流電圧も印加してマイクに届けています(重畳)。4極を3極(L・R・GND)と2極(マイク・GND)に分ける分岐ケーブルのマイクジャックに4極プラグのヘッドセットはつなげられないかもしれない。

というわけで安全策としてこの案は却下。


実際にはPCにUSB接続のマイクロフォンを接続しました。


遠隔同時通訳の友。

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2020-08-15 みきわめの難しさ

身の振り方を考えるときかもしれないというお話です。


通訳者にとっては悩みが深い状況が続きます。

空旅客業や宿泊業だと
「オンライン旅行」
はありえないので、人が動けない限り需要は戻らない。事業の生命線は断たれてしまうのですが、少なくとも断たれることだけはわかる。

通訳者の悩みは一部の飲食店にも似ています。店舗営業ができなければ持ち帰りはどうだろう。仕出しはどうだろう。現場通訳がなければ遠隔はどうだろう。このように自らの経営資源をまだどこかで生かせるのではないかと考える。

しかし飲食店の新形態の販売は急には広がらないし、社内通訳や放送通訳、翻訳にはすでに稼働している通訳者・翻訳者がいます。転身とは新たな競争に参入すること。


会社員勤務で、予期せず年収が急に従来の4割になったら転職するはずです。道路沿いのドライブスルー店舗はバイパス道路ができて通行量が大きく変わるのなら移転は必須です。それでは、通訳需要が急減した通訳者はどうするべきか。

需要は盛り返すと考えるにしても、それは正常化バイアスによる「座視」ではなくて自分なりに考えた仮説に基づいていないと危うい。考えた結果の「待ち」戦略なら状況が変わったときに行動を修正することも可能かもしれません。いっぽうなんとなく待っていると、なんとなく市場が低迷したままでなんとなく仕事がなくなってなんとなく本業と呼べなくなる可能性もあるでしょう。

2020-08-14 先行き不透明

毎月の売り上げを見るときに、8月は良い標本にならないかもしれないというお話です。


まずグラフをご覧ください。コア売上高(実費清算・移動手当等を除いた通訳報酬)の記録です。

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縦棒は各月の売上です。縦軸は昨年比%。折れ線は各月までの累計(YTD)です。

7~8月で累計の前年比が下降から上昇に転じています。つまり
「累計で前年比がどんどん悪くなる状況が止まった」
と解釈できます。

昨年の数字だけを比較対象にしているので参考にしかなりませんが(まして夏休みもある8月は例外的)、少なくとも3~7月よりは良い状況と言っていいでしょう。


夏休み後がどうなるかはまだよくわかりません。参加者が会議室に集まったり来日者が施設を訪れたりすることはないので、通訳需要があるとしても例年とは違った形になるはずです。


新橋駅前ビル地下の「おくとね」。椅子がひとつもない伝統的な立ち食いそば。そばもつゆもてんぷらも高水準で、しみじみとするうまさ。一見殺伐とした店内ですが、不思議と居心地の良い空間です。女性にも一度食べてみることをおすすめしたい店。

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2020-08-11 新たな通訳環境に向けた通訳者からのご提案

通訳者の同業者団体 一般社団法人日本会議通訳者協会 がコロナウイルス流行下での通訳環境(会場・遠隔)について提案をまとめました。

新たな通訳環境に向けた通訳者からのご提案

エージェントやお客さんに依頼するときにも
「こうした団体がこう言っています」
と伝えることで自分だけのわがままではないということがわかってもらえるはずです。

また、エージェント各社にもぜひ使ってほしいと思います。改変せずに著作権者を明らかにしてくだされば自由にお使いになれます。

今回のブログ記事は日本会議通訳者協会の理事としてお届けしました。

 

2020-08-10 オンライン化

分野により緩急はありますが、オンライン処理で済むことは確実に増えているというお話です。


少し昔のお話をさせてください。学校を終えて企業で働き始め、1985年に建築設備会社の海外部門の東京事務所で会計を担当しました。

通信室があり、そこにはテレックス端末と電動タイプライターがありました。インターネット誕生以前の話です。電動タイプライターはIBMMemory Typewriter(リンク先は動画)でした。電源を入れたときのうなり音を今でも思い出します。通常モードでは文字キーを押すと目にもとまらぬ速度で活字ボールが動いてカーボンリボンの上から印字します。メモリ機能があって、前もってキー入力して幅の狭い液晶パネルで内容を確認してから印字の実行ができました。訂正が可能で重宝しました。


当時は外国に送金するのも一苦労で、

  1. 外国為替取引契約を銀行と結んでおいて
  2. 外国為替送金依頼書(4枚複写!)の用紙を銀行からもらってきて
  3. タイプライターで依頼事項を印字して
  4. 依頼書に銀行取引印鑑を押して(大企業ですから 担当者→主任→課長→部長 の決裁を要します)
  5. 依頼書を銀行に持ち込みます。

ミスタイプして用紙をずいぶん無駄にしました。


そして今。オンライン銀行で対話形式やデータアップロードで送金情報を入力し、パスワード等の認証で送金ができます。以前の手間を考えると隔世の思いがあります。

銀行間送金を使わずとも PayPal や Transferwise といった送金手段もすっかり一般的になりました。


いつの日か

「昔は人間が危なっかしく運転して夜通し眠気と戦って貨物を運んでいたんだって」

「通訳するのに人間がまるごと来る必要があったんだって」

と現在の方法が驚きと共に思い出されるときがくるかもしれません。


南インドの軽食「ドーサ」は豆と米に十分水を吸わせてからすりつぶして軽く発酵させて薄く焼いたもの。このドーサは内側にじゃがいものマッシュを包んだ「マサラドーサ」です。左右のドーナツ状のものは豆を材料にした「ワダ」。中央左はココナツチャトニ、中央右はサンバル(豆と野菜のスープ)です。

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