50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2018-05-19 通訳はサービス業

そりゃそうです。物品を売っているわけではありません。求めに応じて役務を提供し、報酬を得ています。

フリーランス通訳者として役務を提供するのですから、労働法が整備される前の工場労働者にも似て
「ケガと弁当は自分持ち」
です。

□月△日に〇〇という場所で通訳をしてほしいという顧客の募集に応募したのなら、「〇〇という場所で通訳を提供する」という役務まるごとが通訳者の業務範囲になる。移動・宿泊・食事その他は原則としてすべて通訳者が用意する。エージェントや顧客が用意するのはあくまでその例外だというのが出発点。ですから事前に打ち合わせもしないで
「食事が出ない。通訳者だって人間だ。メシぐらい食うのがわからないのか」
「どうして通訳者にはミネラルウォーターが出ないのか」
「公共の交通機関がない。どうしてくれる」
という文句を言うのは的外れだと思っています。顧客が買うのは通訳という機能であって、人間まるごとではありません。私たちが観光バスを手配するときに運転手の食事のことを(あまり)考えないのと同様ですね。


初めての現場で食事について特に指示がない場合には当座の飲食物をバッグに忍ばせておきます。工場から出られないかもしれませんし、時間の都合で顧客が食事をしないかもしれません。最近もこのおかげで助かったことがありました。

通訳エージェントの営業の方には交通手段・宿泊・食事・休憩についても顧客と打ち合わせておいてほしいと思います。そして通訳者に渡す業務依頼票に提供の有無・費用負担の有無の欄を作ってもらうとありがたい。コンビニで昼食を買っていったら弁当が用意されていたりレストランを借り切った昼休みで通訳者の席がなかったりということがありました(バスの運転手さんが車内で食べさせてくれました)。


株分けをしたサボテンの小さな玉からも花芽が出ました

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2018-05-17 山あり谷あり

すっきりと晴れた青空のような気持ちで現場を後にすることはなかなかないですね。

・あそこがいまひとつだった…
・ちょっと理解が足りなかったのではないか
・あっちのほうの意味だったのかも…
・もっと抑え気味の表現でよかったな

かなり重圧を感じていた業務が無事に終わって顧客に高い評価をもらうこともあれば、慣れているはずの分野で意外に苦戦することもあります。

通訳の仕事は1つ1つが本当に予測のつかないことばかり。


反省して改善案を考えることは必須ですが、自分を責めるのはよろしくない。私の姿勢としては
「無理に気持ちを明るくしよう・前向きにしようとする必要はない。あまり深刻にならずに、しかしまじめに考えよう」
という感じでしょうか。


日本語の「リニアモーターカー」はあまり通じませんね。英語は日本語よりも文字の本来の意味が優先される気がします。
linear   直線の
motor    発動機・電動機
car   車両

つまり、回転運動ではない発動機を使った車両。磁気浮上して超高速で走るとは説明していません。都営大江戸線の車両はリニアモーター駆動ですよ。

レールの間にあるのがリニアモーターの地上側素子。

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2018-05-13 インド英語攻略法

IT関連の通訳だと話者にインド人が入る割合がかなり高いと思います。インド人の英語には日本人通訳者にとって難しくなる要素が多いですね…。

  • 物心ついたときから使っている準ネイティブスピーカーが多い。そのため自信満々でどんどん話す。
  • インドの諸言語が相互にかなり異なるため、「インド英語」は実は「ヒンディ英語」「ベンガル英語」「カンナダ英語」「マラヤーラム英語」「タミル英語」(以下略)…。つまりフランス人・ドイツ人・イタリア人・スペイン人その他がいるようなもの。アクセントは相当異なる。
  • たくさん話すことは良いことだ、というのが常識らしい。

ということで、慣れるしかない…。


しかし、哀れな日本人通訳者にもできることがあります。それは
「ここにいる日本人は通訳者を通してしか皆さんの話がわからないのです」
ということを意識してもらうこと。そうすれば(わずかでも)話はゆっくりになり短くなる可能性があります。

そのためには通訳者のお願い(ゆっくりね・短くね・はっきりとね・すっきりとね)を聞いてもらう必要があります。

Q:そのためにはどうしたら良いか
A:お友達になる

ということで、私は食べ物の話で相手に近づいていきます。IT関係だと南インドの方が多いので、
「出張たいへんですね」
「日本のインド料理店に連れていかれましたか?」
「どろっとしたカレーとナンばかり食べさせられて参っちゃいますよね!」
(インド人さん激しく同意)
「そろそろ朝食にイドゥリとか、昼にサンバルとか食べたいでしょう?」
(再び激しく同意。そして、「この日本人通訳者、なぜそんなことを知っている?」と不思議そう)
「このあたりにも南インドの料理を出す店がありますよ」
「大久保に行くとソナマスリ米も買えますよ」

このあたりでもうすっかり「仲間」です。以前に仕事の後に一緒に食事に行ったこともあります。運が良いと
「ああ、私の音声は通訳者を経て伝わるんだな」
と意識してくれます(意識しても早口は変わらないことも多いのですが)。

南アジア料理部の経験がこんな形で役に立つとは意外でした。


灰色のカレーはパニール(インドのカッテージチーズ)とコーンです。代々木の「アヒリヤ」。ナンもおいしく焼けています。わかりづらい入り口ながら昼は満席。これは典型的な北インドの料理。

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2018-05-12 両方を知るから

フリーランスの通訳業が本当に楽しく、自分に合っていると日々実感しています。ありがたいことです。

企業勤務経験が長かったこともその理由の一つかもしれません。対照的な世界を体験したからこそ両方の良いところが自分なりにわかる気がします。

毎日違う時間に家を出て異なる場所に向かう。新しい場所・新しい人・あたらしい内容。これが適度で健康的なストレスとなって
「よし、また行こう」
という活力を生みます。


赤坂のインド料理店 The Spice の昼は手軽でなかなかおいしい。アルーベイガン(じゃがいも+なす、写真の右)が選べるのもいいですね。米飯は長粒種でカレーによく合います。

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2018-05-11 逐次月間

昨年末から同時通訳の割合が 50% を超えていたのですが、最近になって逐次通訳の仕事が重なっています。電話会議や訪問に伴う通訳、公聴会など、本質的に逐次が標準という業務です。

経験した方ならわかると思いますが、改まった席での逐次通訳はなかなかに緊張しやすい場面です。二次使用(顧客が録音・録画して通訳音声を後日使用する)や議事録を作成するということも少なくありません。


機械的な訳(字面訳)がそのままわかりやすい訳になることもありますし、少し説明を加えたり整理したほうが訳文が自然になるときもあります。おおむね原文の語順を大きく変えずともわかりやすい訳になることは多いと思います。

現実的な問題として両言語を理解する人に
「たしかにそう訳すのが適当だ」
「なるほど」
と言っていただくように訳すことも必要です。通訳者として市場で生き残っていくための(クレームを避けるための)、いわば「守りの訳」。

しかし、必ずしも原文に(単語レベルで)ぴったり沿っていなくても話者の言いたいことを確実に伝える訳を出せると通訳者が確信を持つときもありえます。便宜上「攻めの訳」と呼びましょうか。

「なぜそう訳したのですか」
と問われたときに説明ができるのなら「攻めの訳」も使うべきでしょう。

この「守り」と「攻め」とを適切に切り替えることが私の課題だと思っています。「攻め」が決まるとつい原文逸脱型の訳の誘惑が強くなります。字面からは逸脱してもいいのですが、意味が逸脱するとまずい。


町内会で出したこいのぼりも片付き、緑がいよいよ濃くなります。

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たまにはカキも食べます。

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2018-05-08 so と and とをやめよう

まるちゃんが

日本人はso so 星人?
(まるちゃん通訳勉強記 2017-06-16)

という記事を書いていたのを思い出しました。英語で話すたびに文を and で始める癖を録画素材で聞いたからです。And の第一の役割は等位接続詞。この基本を思い出すと不要な and がなくなるはず…。そういえば but が口癖になっている人もいましたっけ。

良い(出所の確かな)英文で感じをつかむと so・and・but の乱用が止まるのではないかと思います。


たまねぎベースのチャナ(ひよこ豆)カレーとトマトベースでバターたっぷりのキーマ(ひき肉)カレー。RANI 上溝店(神奈川県相模原市)です。インド人は豆の調理が得ですから、複数のカレーを選べるときには1つは豆にするといいかもしれません。

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2018-05-07 通訳者が仕事をする環境

ときどき「保険」として通訳者を手配するお客さんもいます。英語を使わない人がいるかもしれない・来るかもしれないから通訳者を置いておこう、というときですね。

今までに何度かこうした業務もありました。かなり出番が多かったときもありますし、控えているだけということもありました。

通訳者が一言も音声を発しないことも何度かありました(私はこっそりと「完全試合」と呼んでいます)。

それだけ英語を使う日本人は増えていると感じています。


私が以前勤務していた企業(日系多国籍企業)では、定期人事異動でかなり機械的(=強制的)に国内担当と国際担当とが入れ替えになります。英語に対する方針は
「プールに落として、泳ぐかどうか見てみよう」
というものでした。外国部門に行けば「英語を使わないと仕事ができない」(英語を話さない人=石か木)ということがわかるから、あとは自分でなんとかしなさいという方針です。ただし異動者には機会はしっかりと与えられ、数か月は通常の勤務をすべて免除されて外国語学校と自習とで過ごします(業務として)。

その基礎にあるのは
「イヤなら辞めてもしかたがないですね」
という割り切りなのかもしれません。私はこの方針が好きでした。


そんな人たちがどのような英語を身に着けるかについてよい記事がありましたので紹介します。読めば予想がつくように、通訳学校の受講生の大部分より一枚上手の英語運用能力を持つようになる人は少なくありません。

「英語が使える」ってどういうこと?
(松井博さん on note)


自宅から徒歩数分。橋は絵になりますね。

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