50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2019-09-08 通訳者という職業がなくなる日

先のことはわからないというお話です。

人工知能は翻訳者・通訳者にとって代わるか」
こんな記事を雑誌やウェブサイトでよく見るようになりました。

「かなりのところまで機械翻訳・通訳はできるようになるが、翻訳者・通訳者が不要になることはない」
という意見をとても多く見聞きします。

こうした考えは調査熟慮の末ということもあるかもしれませんが、多くの場合は
「正常化バイアス」
によるものでしょうね。自分が長年親しんだものはそう簡単にはなくなるはずがない。なくなっては困る。そんな思いが底に流れていると想像します。これは思考停止の一種かもしれません。あるいは
「とりあえず自分の代はこの仕事を続けれられるから、難しいことはまあいいや」
というのが意識しない本音ということもありそうです。


フィルムなしに写真が撮れ、デジタル技術がフィルムにほぼ完全に置き換わると思っていた人は 1980年代には研究者くらいだったはずです。

1970年代の子供向けの科学雑誌には原子力飛行機や月面基地の想像図はありましたが、携帯電話やコンピュータは登場していませんでした。21世紀の前半5分の1を過ぎても自動車はガソリンで走っていますし人間型の家事ロボットは存在しないのが現実です。想像力ってそんなものです。


科学技術がどう展開するかも想像しがたいのですが、もうひとつ無視できないのが容赦のない効率化・利益追求です。たとえば人間にしかできない翻訳・通訳があってAIに移行できないなら、原文をAIが使いやすいような表現にすればよい。会議発言を極力
「だれが、なにを、どうした」
という形式にすれば機械で5か国語の同時通訳が近いうちに可能になるかもしれません。社内会議の議事録を機械翻訳するためにこうした方針をとっている企業もあると聞きます。


今は通訳需要が旺盛で通訳者は大忙しです。エージェントから打診されるままに受注するという受け身の姿勢でも中規模企業の初級管理職程度の報酬はさほど苦労なく実現可能。これがこの先どうなるかは本当にわかりません。ひょっとすると通訳需要はさらに伸び、通訳者を志望する人が少なくなって単価が上昇するかもしれません。あるいは自ら外国語(英語)を使う人が増えて通訳市場が縮小するというのもありそうな話です。

過去を見て一つ明らかなことがあるとすれば、変化は思いもかけない形で始まり、急速に産業を変えていくということ。

・自動車は危険なので馬で先導しなければならない
・飛行機は金持ちの道楽になるだけだろう
・日本語をソフトウェアで実現するPCなんかおもちゃだ
・AIはチェスは打てるが囲碁はとても無理

これらは大まじめに語られていたことです。


ムクムクとした立派な木。海浜幕張

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