通訳業務で忙しくしているばかりでは通訳技能を保ったり向上したりすることができないと考える通訳者もいて、この主張はもっともだと思います。資料を読んで準備するだけで精いっぱいといった日が続くと、正直なところ翌日の通訳が大過なく終わればそれだけで望外の成功と思いたくなります。基礎的な練習は「後回し」になり、実際にはその「後」はなかなかやってきません。それでも通訳の品質を担保するにはどうにかして練習を継続する必要があります。
しかし、現場で学ぶことがあるのも事実。
他の通訳者の訳を聞くと本当に学びがあります。通訳者毎の特徴が少し(あるいは多く)現れるからです。
- 用語の選び方
- 速度の制御のしかた(一定なのか緩急があるのか)
- 待たずに順送りなのか意味のまとまりを重視するのか
- 危機管理(追いつけないとき・話者の発言が不明瞭なとき)
▼
人間は自分と異なるものごとに反射的に負の印象を持つ傾向があると思います。自分が重要だと思うことを重要に扱っていない通訳者に対しては
「おやおや、それは問題ではないでしょうか」
「困りましたね…」
と感じます。
しかし、実は自分でも程度の差はあれその問題を抱えているのは間違いありません。それを外部から気づかせてくれるのが他人の訳なのだろうと思います。他人の訳を聞いて「まずい」と感じる要素は自分の訳にもおそらく存在する。あるいは今は表に出ていなくても顔を出す可能性がある。
そしてもう一つ。自分があまり気にしていなかったことを気づかせてくれる通訳に出会う時もあります。単に
「上手だな」
ではなく、上手だと感じるのはなぜかを少し考えてみる。ここから気が付くことも多いですね。
▼
ある週の資料。通訳者は書き込みを望むのでどうしても紙がありがたい…。