50歳で始めた通訳訓練

会社員からフリーランス通訳者に転身。同時通訳ブースに入り、通訳学校の講師に。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2015-10-11 通訳学校ではわからないこと

通訳学校や学習会で練習してから通訳の仕事に出た人は皆経験していると思います。
「生のやりとりは録音教材とは全く違う」


通訳の仕事を始めて1年半、通訳学校を修了して8か月が過ぎました。
「通訳技能の向上のためには通学を(ある程度以上)重ねても効果がない。実際の通訳現場に出なければ課題そのものがわからないから練習方法もわからない」
ということを最近思います。


最初の課題は「立ち居振る舞い」。通訳経験がない場合の最初の仕事は簡単な案内や商談が多いと思います。展示会や施設見学、見本市などですね。こういった場面では売り手も買い手も初対面のことがほとんどで、込み入った話にはなりにくい。内容で負担がかからない分、通訳者としての行動を学ぶよい機会になります。

内容は簡単なのですが、それ以外が難しい。誰にどんな順番であいさつするのか(しないのか)。どこに座るのか。どんなタイミングで口を開くのか。文化・商習慣の違いで混乱してきたらどうするのか。食事が出たらどうするのか。


要求度がさらに高い業務に出るようになると最大の・永遠の難関である「生のやりとりの壁」を感じるようになります。
「何言ってるのかわからない!」
「訳が出てこない!」
という経験をするはずです。度重なる交渉の途中で参加したとき・組織内(社内)に入ったときにこの危険が増します。

用語集や資料を使って自分でできる限り十分に準備します。それでも専門家が長年の経験を基に思いつくままに話を展開したり、それを相手側がさえぎって反論したりすると話の難しさが通訳者の理解の限度を超えることが起こり得ます。まだ世に出ていない技術や業界の動きが話題になるときもあるでしょう。さらにこうした場面での会話は文脈・背景に大きく依存しています。構文(syntax)を読み解いて言語変換をするだけでは行き詰ると私は思っています。だからこそ通訳者には専門分野ができてくるのでしょう。


このような痛い目に遭った後に通訳学習の第2段階が始まる気がします。実務経験がないと意識できない課題がある。この課題にどう取り組むかで通訳者として市場に留まれるかどうかが決まるような気がします。


「経験年数」「実績」が意味を持つ理由がだんだんわかってきます。流れ星のように登場してすぐに一級の仕事ができる人は(世に出た通訳者の)百人に1人でしょう。そうでない大多数の通訳者はどうするのか。通訳学校の募集要項でよく見かける
「続けることが大切」
というのは、通学ではなくてその後の話なのです。通訳者の廃業率も低くないはずです。生計を立てるだけの収入を確保するまでに至らない人も多いでしょう。私にとって、この道のりはまだ始まったばかり。