50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2020-03-07 新しいものはあるか

通訳を提供するという市場に参入する場合に、市場そのものを拡大する方法はあるのだろうかというお話です。


ドトールコーヒーショップが店舗展開する前には誰もが
「日本には喫茶店はたくさんある」
と思っていました。

そして低価格・そこそこの品質・手軽・便利・どの店でも同じという新しい業態で喫茶店市場そのものを拡大してしまいました。

米国からスターバックスがやってきたときも懐疑的な見方はあったはずです。こんなに喫茶店があるのにどこに店を出すのか。

しかしスターバックスの躍進はご存知のとおり。市場はさらに拡大しました。


郊外型うどん店の伸びも目覚ましいものでした。

いっぽうハンバーガー・牛丼・ラーメンのチェーン展開は飽和しているかのようです。厳しい価格競争にさらされていますし、新旧交代の代謝も遅いという印象があります。


通訳の場合にはどうなのでしょうか。通訳の新たなサービス提供形態が広まって市場の変化が加速するのか、それとも従来からの業態が続いて変化は緩慢なものなのか。

私の場合は「自分だけの強さ」を特に考えることなく、従来から続く通訳サービスを提供する形で参入しました。ですから開業当時は仕事の量が少ない下積み時代となったわけです。その後は徐々に仕事が増え、会社員時代よりも年間キャッシュフローを大きくするところまでたどり着きました。

ラーメン業界・カレー業界には
「店を出すなら激戦区に出せ。それで負けるようならそれまでだ。激戦区で勝てば客は多いぞ」
という格言があります。世の中に新しいもの(市場)はそう簡単に生まれないという考え方ですね。放送通訳・会議通訳・通訳ガイドといった形態は上の例でいうと「激戦区」。それなりの品質を実現して「使いやすい」通訳者になれば仕事はある。

しかし、ひょっとすると私の気づかぬところで何か新しい形態が生まれつつあるのかもしれません。環境が変化するときには自ら変化する者だけが生き残る。気づくことはできるのでしょうか。

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近所なのですがあまり出かけない場所。富士がこんなふうに見えるとは知りませんでした。

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2020-03-05 下方弾力性

仕事が減っています、というお話です。


コロナウイルスの影響で中止になった通訳業務の数が今年 2020年の累計で9件、13日分になりました。三月からしばらくは業務件数は大きく落ち込むと思います。

通訳産業と言ってもいろいろな形態・市場があって一律に冷え込むわけではありません。例えば日本在住の外国人が関わる定常的な通訳は続きます。国内関連の通訳需要による新規の照会が入って少しほっとします。打撃が大きいのは外国からの来日者による通訳需要ですね。国際会議や展示会、視察などは影響が最も大きい分野です。


通訳専業になったばかりの2014年には仕事の数が少なかったので、業務照会が少ない現在の「奇妙な静けさ」は新しい体験ではありません。
「やはりこういうときも来るか」
という感じがします。

通訳業の個人事業主の利点は
・固定費がほぼない(維持する設備がない)
・一時的に他のことをしていても市場が活況を示せば比較的容易に受注できる
ことです。つまり「冬ごもり」による打撃が(固定費が必要な事業に比べて)軽い。事務所を借りたり人を雇っていたりすると売上減少は相当の痛手になります。

自分の力が及ばないものが相手のときにはどうするか。
「そうですか。そうなりますよね。それでは、どうしましょうか」
とあせらず構えることにします。


ナンのおいしい店は意外に少ないものです。あまり期待しないで初めて行った店のナンがおいしくてびっくり。神奈川県藤沢市善行のミニインドレストランはインド人調理の少数派です(横浜市南部・藤沢市にはネパール人調理の店が大多数)。料理も「作り慣れている(この料理はこうあるべき、が良くわかっている)」感じがします。

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2020-03-03 なんとかして手をつける(学習)

気が進まないことでも、なんとかして始めなければ、というお話です。


言語や通訳の訓練をするのはさほど苦手ではありません。かなり楽しんでできていると言っても大きなうそにはならないと思います。しかし喜び勇んで始められない「科目」があるのも真実です。私の場合は逐次通訳の練習です。同時通訳は散歩道を歩きながらでも可能ですし、自分の通訳音声を録音して改善点を見つけるという楽しみがあります。

逐次訳の場合には音声を再生して止め、ノートを取る環境も必要です。自分の声は十分に確認できるので音声面での発見・改善も同時通訳ほどには見込めません。


それでも訓練をなんとかして自動的に始めるようにしたいですね。逐次通訳を高品位にするのは通訳者の価値を市場で高め、他の通訳者との差別化を図るために欠かせません。いっぽう同時通訳業務の割合が多くなると逐次の練習におっくうさを感じることもあるでしょう(私の場合今年いままでの同時割合は 87% )。

半ば自動的に逐次の練習をするよう「しくみ」を作る必要がありますね。


横浜市長屋門公園ではこの時期にひな人形を展示しています。古民家もその後ろに広がる保存林の講演もとても気持ちが良い場所でおすすめです。

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2020-03-01 あせってもしかたがない

わずか数日少ないだけですが、2月が去るのは早く感じます。


コロナウイルス蔓延を懸念して会議の延期・中止が多くなりつつあります。

今年になってからいままででコロナウイルス対策のために中止になった確定通訳業務は計6件、11日分です。さらに増えると思います。

日本会議通訳者協会のフェイスブック会員限定グループでコロナウイルスによる通訳業務への影響の情報を交換していますが、人によりずいぶん異なりますね。全般的な傾向としては

  • 日本在住の外国人が関わる通訳はあまり影響を受けない
  • 来日者が関わる業務は影響を受ける
  • 来日者関係でも、国際会議・観光・視察の通訳需要は大きく減少

となっています。


手持ちの通訳予定が少なく、照会を受ける回数も減ってくると心配になります。仮予約が入っても
「これもおそらく中止になるだろう」
と思うことも増えてくるでしょう。

しかしものは考えようで、こうした経験から将来に向けた対策も考えることができるともいえます。影響をほとんど受けていない通訳者もいる。そうした人はどのような仕事をしているのか。その方向に移行することを検討すべきかどうか。


私の場合は日本で進行中のプロジェクト関係の通訳業務があったために2月はなんとか昨年からあまり落ち込まずに済みました。
1月の売上 昨年同月の 79%
2月の売上 昨年同月の 97%
2月累計  昨年同月の 90%
となっています。3月は前年からの減少が大きくなるかもしれません。

通訳者となったのが 2014年なので SARS金融危機による需要の大きな落ち込みを経験していません。今回が初めての試練。転んだとしてもただで起きることのないよういろいろと考えていきます。


お客さんが出してくれた弁当は気になっていた店のものでした…。

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2020-02-28 ひやりとしよう

「できるひとはできちゃう」というお話です。


やや急な呼び出しで通訳の現場に向かいます。ひょっとすると担当することになっていた通訳者さんの都合が急に悪くなったのかもしれません。

同時通訳で社内通訳者さんと組みます。

訳を聞いてびっくりです。なんとなく聞くと話者の言ったことを取捨選択なくひたすら訳出しているようなのですが、実は瞬時の理解が正確で「何をどう出すか」の判断が行き届いています。それでいて余計な味付けがない。情報量の多い語りをここまで瞬時の判断を生かして通訳しているのを聞いたことはあまり記憶にありません。いわゆる
「同業者の顔が青くなる」
通訳者さんです。

大学院や民間の課程で通訳訓練をしたことはないとのこと。世の中ときどきこうした
「自分の才能というサーフィンボードの真上に立っている」
人がいるものです。


通訳学校時代の私の恩師はこんなことを言っていました。

かつての受講生と現場に出ることにしている。

キラキラした新進の通訳者と仕事をするときに感じる
「ああ、私なんか一瞬で周回遅れにされそうだ」
という一種の危機感。これを感じないと通訳者人生はゆっくりと敗北に向かうのだろうと思います。


少し増えた体重が戻らないのはキミのせいかね?

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2020-02-24 基礎練習組み換え

八年後の変更というお話です。


通訳学校に通い始めた2012年から今まで欠かさず続けている基礎学習があります。出所の確かな英語を黙読し、目を離して再現するという単純なものです。

短く1~2文を正確に再現したり、長めに話の筋を追えるかを試したりと、外から見ると同じように見えても多様な練習ができます。読み取りの練習と共に、英語の根源的なしくみ・発想、つまり「普通はこう言う」ことがわかってくるのが大きな利点だと思っています。結論の述べ方、理由の示し方、例の引き方から時制や限定・非限定についてもとても効果的な勉強になります。


昨年(2019年)に東京外国語大学出版会の「よくわかる逐次通訳」を購入し、今頃になってようやく手を付けました。仕事で通訳をするからこそ本書の説明の重要さがわかる気がします。通訳では起点言語の表現にとらわれることなく意味をつかみ取ることが必要だという箇所が気になりました。

英語を読んだり聞いたりすると、その意味は頭の中で
「♪#△@$π&」
という渦になる。通訳するときにはこの
「♪#△@$π&」
が日本語になって出てくる。

英語を読んで英語で再現するとこの「非言語化」に制約が課せられるはずです。どうしても英語の単語の印象が強い(再現しなきゃ、と思ってるから特に)。

それでは、と再現を日本語でしてみることにしました。なんのことはない、逐次訳です。ただ練習している本人の理解は通訳学校に通っていたときのように
「ハイ、ここ訳してください」
と言われたときとは心構えが少しだけ異なっています。原文の意味をしっかりとつかみ取って話者・筆者に誠実に別の言語で再現するには非言語化の域を通らなければならないという意識がある。そんなこと関係ない、「訳は訳だ」と感じる人ももちろんいるはずですが、私の場合には
「これは、こういうことなのだ。こうした意味があるのだ」
と考えて取り組むのが好きなだけです。そのほうが若干でも練習の「効き目」がありそうですし。


いつもの散歩道。

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ダイちゃん。

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2020-02-22 直接契約のときに気をつける点

おすすめはエージェントと自分との契約書をよく読んでみることでしょうか。

  • 自分が契約者(幹事)になり他の通訳者を動員するときには他の通訳者の管理責任が生じる。自分が現場にいないときには再委託に当たるので発注者との打ち合わせの初期に他の通訳者を起用することについて打ち合わせをしておくこと。
  • 契約書や注文請書の印紙を忘れずに。
  • 通訳音声の二次使用についても当初から確認すること。
  • 通訳者にとってあたりまえのことでも顧客によってはそうではない。機材や音響の取り扱いにも具体的な説明を尽くすこと。


以下のような理解の相違があるかもしれません…。

顧客は講演会の聴衆全員が音声をイヤフォンで聞くと思っていた。つまり講演者が英語で話すなら英語で聞く人もイヤフォンで英語を聞くと思っていた。会場のスピーカーは使わない。

いっぽう通訳者はイヤフォンを使う人は通訳音声を聞きたい人だけが使うと思っていた。(これは実話ではなくブログ筆者の創作です。)


オフィスビル地下のカフェがいっぱいになるのは朝の1時間程度と夕方。午前9時を過ぎたら客は2割の入りで、店内を広く感じます。

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