アルクの「翻訳・通訳のトビラ」に日本通訳フォーラムの記事が出ました。3会場・13の講演から4つにつき詳細な報告があります。
アルクはイカロス出版と共に日本通訳フォーラムの初回(2015年)から支援をしてくださっています。
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この道を歩いて通う現場は 31回目でした。32回目も初めて来たときの緊張感で臨みます。
数日前に日本会議通訳者協会が Facebook 上に設けている会員限定グループでのどをいたわる話題が続いていました。水を超微粒子にして吸引できる携帯機器や外国みやげで買ってきてもらう強力なのど飴など、皆さんいろいろと工夫しています。
私は過去一度だけ
「うわ、声が枯れるってこういうことか」
と思ったことがあります。騒音の中で大きな声を使った翌日の朝でした。幸いその日に仕事がなく、数時間のうちに落ち着きました。それ以来大きな声が必要になると感じたときには脱力して体の重心を下げるような意識で柔らかく声を通すようにしています。
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そんな折、3人体制で午前・午後の同時通訳を担当しました。発話量が非常に多い業務です。そして1人がまったく声が出ない状態で現場に到着しました。なるほど、これが噂の…。
「♪~!」(バッハ トッカータとフーガ)
という感じです。
良いニュースもあって、3人は今までよくいっしょに仕事をした仲。特に騒ぎ立てることもなく2人体制で乗り切りました。同じ業務はいつも3人だったので最後は少し疲れを感じましたが…。
通訳を発注した側には何の影響もなかったはずです。こういうときこそ涼しい顔をして客には何も悟られないように進めたいもの。
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この件から得る教訓は何か。
通訳エージェントには事情をさりげなく伝えておきます。エージェントが第一に心配するのは苦労した通訳者のことではありません。顧客がエージェント・通訳者に対して持つ印象です。そこに心配がなければ通訳者の印象はぐっと良くなります。
エージェントにとっての良い通訳者は
「現場を無事に納めてくる通訳者」
「済んだことをあれこれ言わない通訳者」
ですから…。
※ 本件のブログ掲載は同席通訳者2人の承諾を得ています。
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というわけでちょっとした慰労です。ネパール風のじゃがいも料理と干し肉料理。実においしいんです。
音楽やスポーツで食べていくことに比べれば、通訳業は見通しがつく(あきらめもつく)。
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渋谷のライブハウス13会場で開催の
HUG ROCK FESTIVAL2018 秋分の日
に出かけました。おめあては
マキアダチ
です。演奏は北欧・UKロックの世界でした。終演後にCDを買う列ができました。
マキアダチのサポートでベースを弾く なかむらしょーこ の参加で気になっていた
SMOKY AND THE SUGAR GLIDER
もすばらしい演奏でした。
ボーカル・ギターの斉藤麻里がこんなことを言っていました。
「こうして皆の前で演奏できて、皆さんが来てくれる。これはとてもありがたいこと」
斉藤はデビューして14年、独立系の音楽アーティストには困難ばかりだったはず。それでもすばらしい仲間と作品を作って世に出す(SMOKY AND THE SUGAR GLIDERは2017年結成)。その覚悟がステージから伝わってきました。フリーランスで自分の技能を売って生計を立てる通訳者の胸にしみます。
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音楽アーティストで身を立てることに比すれば通訳業はずっと見通しが立ちます。少なくとも通訳業では何が売れて何が売れないかがはっきりしている。水準に達する仕事ができれば収入はついてくる。
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ロケ地がうれしい MV。最後にメンバーがそろいます。
今年のいままでの業務では
・同時通訳 58%
・逐次通訳 42%
となっています。
工場や屋外施設の視察の通訳をある程度請け負っているので逐次も定期的に担当しています。
逐次通訳にもいろいろな種類があります。儀礼的なあいさつ、講演、交渉、作業など。
顧客の業務現場に出て業務や技術の説明を訳す場合には1回の発言は短めになり、通訳者はほとんどノートを使わずに訳す場面もかなりあります。長い発言をきちんと伝える困難さはありませんが、説明や質問を切れ味良く伝えて通訳が妨げにならないようにする点ではその他の通訳業務と変わりません。
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もう何度も出向いている一問一答形式の通訳現場があります。これも私にとっては非常に大切な仕事であり、通訳者としての課題を見つけ、その対策を試す場でもあります。
「本当にあの訳で話者の意図に等価だっただろうか」
「もっと切れ味良く伝えられないだろうか」
「思い切って原文から離れてもよかったのではないか」
「通訳者の自分勝手になっていなかっただろうか」
こうした課題発見とその対処の考案、実証には短いやり取りの業務のほうが向いています。業務後にやりとりを思い出しやすいのです。
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南インドの代表的な料理サンバルとラッサムを作りました。レシピを何度も読むと自分が鍋に向かったりスパイスを扱ったりする場面が目の前に立ち上がってきます。そうなればあとは実際に火を入れるまで。ラッサムだけ器が3つそろったところ。右上のものが上澄みです。下のラッサムは鍋の底のほうで少し混濁してますね。サンバルはオクラとナスで作りました。いくらでも食べられそうな家庭の味に仕上がります。共にしょうが・にんにく・たまねぎ・トマトという「味出し野菜」を使っていませんが十分にごはんのおかずになるおいしさ。
今回お世話になったのは「南インド屋」の製法です。
南インドの代表的なカレー「サンバル」のレシピ
このブログをお読みの皆さんは
・仮案件
・確定案件
の定義を他の人に説明できるでしょうか。
また、直前の台風や地震で通訳業務が実行不可能になったときのキャンセル条項の扱いについてはどうでしょう。物理的に実施が不可能になった場合・念のため主催者が取りやめた場合・通訳者が会場に到達できない場合、どのように考えればよいのか。
移動拘束費の根拠はどのようなものでしょうか。
通訳によって生じた損害の賠償額に上限はないのでしょうか。
労働者派遣と業務委託の違いを理解しているでしょうか。
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こうした疑問がなんとなく放置されてきていて、同じ用語(例えば「仮」)について通訳者やエージェント、発注元がそれぞれ異なった理解をしていることもあるでしょう。特に入れ替わりが比較的頻繁に起こるコーディネイター職の方々は前任者から事務の取り扱いを急いで引き継いで仕事をしていることも多いのではないかと想像します。
日本会議通訳者協会が
の開催を発表しました。
エージェントとの基本契約書についても、知っていて署名するのと受け身で署名するのとでは大きな違いがあるでしょう。
フリーランスで仕事をするからには自分の身は自分で守るという姿勢がどうしても必要になると思います。
これを機に考えてみてはどうでしょうか。
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よく見かけるネパール人シェフによるインド料理に見えますが、この店は丁寧に仕事をしていておいしく食べることができました。ラッシーに隠し味としてカルピスを使うしゃれた小技を使っているようです。
こんな場面を想定してみてください。
英語話者が来日し、日本人数名と順に個人面談をする。英語を使わない人もいるので通訳者が手配されました。
なかには英語をかなり自由に使う人がいます。
「話者に勝る通訳者はありえない(本人が伝えられればなにより)」
ので、通訳者は黙っています。
途中で表現に自信がない部分があったのか、通訳者に確認をしました。通訳者はその場で最も適切と考える表現を出してみます。
話者はその訳が気に入ったようで、深くうなずいて採用してくれました。面談の相手側もわかりやすい返答があったので次の質問から内容が深まり、核心に迫っていきます。
「あー、そうですよね。それなら…」
日本人が無意識に日本語で考えを口に出しました。通訳者は反射的に訳を出します。
この瞬間からすべての発言で通訳者を使い始めました。
「そのほうが良い結果につながる」
と判断したのでしょう。
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そして当然この逆も起こります。
通訳を使って面談が進み、どこかで
「うーん、なんか違うんだよな…」
とつぶやき、自分で英語で話し始める。通訳者は軽い敗北感を胸に、しかし平静を装って次の出番を待ちます。
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いつものことですが、一喜一憂すべからず。そのときにはそのときの場が生まれ、流れができます。
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以前はあまり食べなかった崎陽軒の「シウマイ弁当」を最近はおいしいと感じてときどき食べています。買うのはいつも横浜駅中央店、元祖家元・本家本元です。食べるのは特急「ひたち」や上越新幹線・東北新幹線の車内が多いですね。