50歳で始めた通訳訓練

通訳者のブログ。会社員からフリーランス通訳者に転身。以下のユーザー名をクリックするとプロフィール表示に進みます。

2017-04-20 通訳学校に通うにあたり--3 教室での行動

通訳学校に通うなら、以下のことはおすすめです。通訳者としてとても良い習慣ですし、講師のおぼえもめでたくなります。

  • 教室には早めに到着する。通訳者に遅刻は許されません。あたふたと入ってくる受講生を見ると、講師は
    「この人は通訳現場でもこうなのだろうな」
    と思います。事情があるなら前もって伝え、他の受講者の迷惑にならないように。
  • 訳出は大きな声で。目安は教室の隅々で楽に聞き取れる程度。自信を持った声を出す習慣は通訳技能が上達した後で急に身に付くものではありません。常に「お客様に聞かせる声」を出しましょう。
  • 訳文ははっきりと最後まで言い切りましょう。わからなくなったらわかるところまでで文章を終わらせる。
    「…じゃないかと思うんですが」
    「…でいいですか」
    とごにょごにょと付け加えないこと。訳の改善にはなりません。
  • 他の受講生が訳で詰まった場合に「私はわかります」とばかりに小声で訳を口に出さないように。1回に発言する人は1人。原則は「求められたら発言する」です。言いたいことがあれば手を挙げて許可を求めると印象は非常に良くなりますよ。


ギターを弾く通訳者 丸尾一平さんのライブ。Clutch Players のお二人(ベース・ドラムス)も実に芸達者ですばらしい演奏です。池袋「Free Flow Ranch」にて。食べ物もおいしい。

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2017-04-19 通訳学校に通うにあたり--2 学習に王道はあるのか

通訳者養成というと何か特別な訓練や学習方法があるのではないか。通訳学校で学習しようという方でも初心者にはときどき誤解もあるような気がします。

  • 他人の言うことを細大漏らさずくっきりと聞き取ることが重要。通常のコミュニケーションでは通訳で要求されるほど集中して聞き取ることは普通していないように思います。
  • 聞こえてくる音声・言語に何か(柔道やレスリングのように)「技」をかけて他の言語に「変換する」のとは違います。
  • 言語の変換というのは正しくなくて、「通訳者の頭の中に映ったイメージを他の言語で説明していく」という感触に近いかもしれません(同時通訳のように半ば反射的であっても)。
  • 「通訳術」という客観的な一連の技能パッケージがあって、それを(確立した方法で)順番に身に着けたら通訳ができるということはありません。同じような訓練をしても人によって上達の度合いは様々ですし、必要な訓練は人によって違います。

Aという練習をして、次にBをして…、というスマートでかっこいい学習では対応できないことが多いんじゃないかと思います。伸び悩んだり、自分で練習法を考えたり、指導者にヒントをもらったりして手探りで進む必要もあるはずです。

A lot of people want a shortcut. I find the best shortcut is the long way, which is basically two words: work hard.
--Randy Pausch, The Last Lecture  

 


パキスタン風のもてなし。いつもは2枚のロティが3枚。他の人が注文したビリヤニのおすそわけも…。クローブとカシア(シナモンの亜種)が効いたチキンカレーは特においしい。神奈川県座間市の「ビリヤニハウス

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2017-04-18 通訳学校に通うにあたり--1 職業訓練です

通訳学校で学習するときに心に留めておくとよさそうなことを書いてみます。数回の連載になると思います。

初回は…

どの学校であれ、「通訳者養成」を掲げているなら職業訓練課程ということになります。

  • 自らの選択で受講し
  • その目的は通訳者になること

というのが前提になるかと思います。もちろん受講者の中には目的が異なる人もいるでしょう。英語で発表する能力を伸ばすためや、職場での聞き取り・発言を練習するという意図で受講することも大いにありえます。これ自体にはまったく問題はありません。

ただし、学校や講師は通訳者を養成することを主目的にしているので、その点に同意して受講することが必要です。授業の進行も受講生の評価もこの目的に沿って行う点は理解しておく必要があるでしょう。

2017-04-17 講師始めます--こちらから、あちらへ

2017年04月から民間通訳学校の通訳者養成課程で講師をすることになりました。


2015年09月に修了生として通訳学校の受講生募集セミナーで発表し、2012年04月に通訳学校に初めて足を踏み入れたときからの時の流れを感じました。
「向こう側(聴衆)からこちら側(発表側)に(自分が)移ったんだなあ」
と一種の感慨がありました。

そしてこんどは受講生から講師への移動です。講師打ち合わせでかつて指導していただいた方々と席を並べるのは少し不思議な気がしました。


2年や4年よりも3年・5年という数字が区切りとしてよく用いられています。ここにも不思議な真実があるのかもしれません。2012年04月に通訳学校に入ってから5年、2014年03月に初の通訳業務に出かけてから3年。

次はどんな区切りがあるのでしょうか。


すてきな外観、テラス席付きの南インド料理専門店。毎週通えそうです…。

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2017-04-15 通訳学習で効果が上がる人

通訳の学習をしていて
「じゃあどうすればいいんですか」
という問いを多く発しているとしたら要注意かもしれません。この言葉の向こうに
「要求すれば(私にとっての)最適解が与えられるはず」
という姿勢が見え隠れします。

あるいは最適な努力をすれば最短時間・最少労力で最大の成果が得られるだろうと期待している。

客観的な解答が前もって決まっていると仮定し、そこにいかに要領よく到達するかという考えの延長にある発想のように思います。


通訳訓練はそれほど「固まって」いないと思います。
「コレをして、次はコレをこうやって、こうしていけば通訳者としてデビューできます!」
と説いているとすれば、それは様々な努力をして通訳者になった人が自らを振り返ってその過程を語っていることがほとんどです。上記の発言は実は
「コレをして、次はコレをこうやって、こうしてみたら、私の場合は通訳者としてデビューできました」
と語っているにすぎません。


通訳者として世に出た人には
「学習セットAをして、Bをして、Cに進んで同時にDを続けて…」
と外部(講師・学校・「ネットの情報」)から情報を得てそのとおりに進んだ人はほとんどいないのではないかと思います。

むしろ学習するのが苦しいながらも楽しくて続いてしまった人・いろいろと疑って自分で試した人・くやしさをバネにひたすら取り組んだ人が多いように感じます。

インタースクールのプロ速成科(現在の専属通訳者養成コースの前身)で共に学んだ若い仲間はとても優秀だったと思います。その人たちにとって学習することは当然のことになっていて、モチベーション・何時間学習するか・プログラムの内容といったことにはほとんど関心を示さなかったように見受けました。いわば
「息をするように学習」
していたという印象を与える人たち。

私は手探りばかりしていて、勤務先を退職するという「渡った橋を焼き落とした」勢いで学習をしている一面もありましたが、他方こうした「澄んだ心」で学習している感触も得ていました。

みなさんはどうでしょうか。

 


ダルバートが続くと炭水化物を食べ過ぎてしまいますね…。それにしても豊島区大塚の「ダルバート」のダルバートはおいしい。日常食のたたずまいですが、食べてみればもう芸術に近い。

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2017-04-14 通訳者として最も大切なこと

思わせぶりな表題なのですが、内容は平凡です。

通訳者として最も大切なのは

  • 顧客の
  • エージェンシーの
  • 同僚通訳者の

期待を裏切らず、実績を重ねること。
たぶんこれしかない。

ひとつの仕事が終わったら、次の仕事でもう一歩重ねる。

運の悪いとき・仕事と自分の得意分野や経験の巡りあわせがよくないときなどいろいろありますが、できるだけのことをして次につなげる。

顧客・エージェント・他の通訳者から寄せられる信用は大きな財産になりうるけれども、失うのもたやすい。プロは得意なところを大いに生かしながらも、不得意な部分もなんとか目立たないようにしたり改善したりしてリスクを管理し、信頼の失墜を防がなければなりません。得意なことを伸ばすことで足りるアマチュアと違うところではないかと思います。

そして、こうしたリスク管理に最も効果があるのが日々の仕事から学び、仕事の他にも訓練を習慣づけることなのでしょう。

 


新宿区四谷三丁目の「ココカラ」で豆乳プリン。黒糖風味・きなこ入り。最近の好物です。
店主は20代で仲間と開店しました。その仲間が一身上の理由でわずか2年後に去った後に同郷の気心知れた友人を招き入れます。落ち着いたのもつかの間、3年後にその友人も帰郷。一人で夜までの営業を続けるのは身体的に無理と判断し、午後6時以降は別の経営者に店舗を貸すことにしました。柔軟にあきらめずに厳しい競争の中で自営を続けていく姿に何度も励まされてきました。いつも勇気をありがとう。

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2017-04-12 手放さないとつかめない

モコちゃんパパさんのブログ「定年からの通訳デビュー」に

何かを削いでいかないと新しいことはできない

という記事があります。

そうだよねぇ、と深く同意しました。私も勤続28年の会社員生活と管理職の年収を放り出しましたからね…。

2007年から久しぶりに二輪車に乗り、季節を感じて走る喜びを思い出したのですが、2013年の年末に手放しました。思いついた翌日に買取店に持ち込み、ヘルメットを片手に電車に乗って帰りました。時間を使う楽しみは通訳訓練と相いれないと感じたためです。事故に遭ったら仕事に出られなくなりますし。

2008年の年末にはちょっとしたゲーム感覚で飲酒を一切やめてみました。勤務先の宴会でも困らないことがわかり、3か月、半年、1年と経つうちに飲まないのがすっかり自然になり、もう8年3か月になります。若いうちはまだしも、私の年齢だとアルコール摂取をしないのは通訳の学習に良い影響があったのだろうと思います(時間の確保の面で)。

 


天賦の声を持つ歌手 SalyuIris-しあわせの箱
「失わずには前に進めない」(04' 13")という歌詞に心を打たれます。